米大リーグで目覚ましい活躍を続ける大谷翔平選手。並外れた素質の持ち主であることはいうまでもないが、抜群の素質を持ちながら活躍できない選手もいる。一体どこが違うのか。 マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は「大谷選手は私が『トルネード式』と呼ぶ仮説検証思考を身につけている。だからオープン戦では苦戦したが、公式戦で結果を出せた」と分析する――。
2018年4月22日、ジャイアンツ戦にエンゼルスの大谷翔平が4番DHで出場することを伝える電光掲示板(写真=時事通信フォト)

「開幕には間に合わないのでは?」との声もあった

今年2月から3月に行われた大リーグのオープン戦で、大谷は振るわなかった。

投手としては、打者20人に対し、9安打、3被本塁打、5三振、3四死球。防御率27.00。

打者としては、32打数4安打、0本塁打、1打点、10三振。打率0.125。

数字だけ見ると惨憺たる結果である。

「開幕には間に合わないのでは?」「マイナー落ちではないか?」と予想する声も多かったが、開幕後の大活躍は既に報じられている通りだ。

実は当初から、エンゼルスの幹部は「オープン戦の数字は意味がない」と語っていた。本来オープン戦はいろいろなことを試す場だ。大リーグ1年目の大谷にとって大きな課題は、大リーグ選手との実戦経験不足。だから実戦を通して学ぶことが必須だったのだ。

オープン戦の試行錯誤を通じて、大リーグについて学んだ

たとえば2月24日のオープン戦初戦の登板。スライダーの制球力が乱れ、予定の2回を投げきれずに1回1/3、2安打2失点で降板した。しかし登板2回目となる1週間後の練習試合では、スライダーのキレが戻り、8つのアウトをすべて三振で取った。実戦を通じて調整をした結果だ。

大リーグと日本では、公式球の違い、マウンドの硬さや傾斜、ブルペンでの球数制限、自軍攻撃時のキャッチボール不可など、投手の環境はまったく異なる。オープン戦の仮説検証を通じて、大谷は大リーグのベースボールについて学んでいたのだ。

一方で打者としての大谷は調整が遅れていた。大リーグ投手のフォームは日本人選手とは異なるので、テークバックが遅かったりして、なかなかタイミングが合わなかった。必要なのは場数だ。そこで打席数を増やすことで、タイミングを会得していった。

大谷はオープン戦や練習試合で、具体的な課題を一つひとつ決め、その課題に対して仮説を立てて、仮説を実戦で実行し、結果を検証して課題を一つずつクリアすることにより、急速に大リーグに適応していったのだ。