世界が沸いた平昌(ピョンチャン)冬季五輪。開催国の韓国は、通信方式「5G」の実証サービスを世界で初めて行った。会場内では「5G」の2文字が目立ったが、そこには焦りもみえる。開会式では1200台以上のドローンの同時飛行が披露され、韓国の大手紙は「5Gを利用した」と報じたが、実際には使われていなかったのだ。なぜ焦るのか。デジタルハリウッド大学の占部雅一教授による現地リポートをお届けする――。

ピョンチャンは世界初の「5Gオリンピック」か?

連日、熱戦に沸いた平昌(ピョンチャン)冬季五輪が終わってしまった。しかし、終わらないレースが1つ存在する。それが「5G」の戦いだ。ピョンチャン五輪は、通信業界では「5Gオリンピック」と呼ばれていた。この大会で、「5G」という通信方式の実証サービスが世界で初めて行われたからである。

私は、開会式直前の8日に韓国に入り、海側の開催地・江陵(カンヌン)を目指した。平地のカンヌンにはスケートやホッケー会場があり、山側のピョンチャンはジャンプやモーグルの会場がある。長野五輪でいえば、長野と白馬の関係に似ている。最高気温は氷点下。さらに高地特有の強風で、「寒過ぎる五輪」などと報じられたが、毎冬スキーを楽しむ私にとっては「やや寒い」程度で、ガマンできる範囲だ。私の体感では日本の報道は大げさに思えた。

KTのパビリオン(カンヌン)。内部ではタイムスライスなどのVR、ARを中心にデモを展開していた。

テックイベントのような企業パビリオンが並ぶ

「5G」での通信を実利用するのは、ピョンチャン五輪が世界で最初だ。だがこれは、今後、世界統一規格としてまとめられる「5G」とは、少々異なるもので、「ピョンチャン5G」と呼ばれている。規格の統一を待たず、フライングで公開実験を行っているわけだ。なぜそこまで急ぐのか。韓国勢は五輪という場で、5Gというプラットフォームをいち早く公開し、自分たちの先進性をアピールする狙いがあるのだろう。私はそこでなにが実現されるのかが気になっていた。

一番の驚きは、五輪というスポーツイベントにも関わらず、会場内にテックイベントのような企業パビリオンが並んでいたことだった。各社のブースでは至るところで「5G」を謳うデモが用意されていて、子供の背丈ぐらいの「ロボットヘルパー」が会場案内のために動き回っていた。

85台用意されたという「ロボットヘルパー」

オリンピックプラザだけではない。カンヌン駅前に用意されたICTプラザでは、5Gに関連するARやVRの体験コーナーや、韓国のIoTベンチャー企業の展示ブースが用意されていた。

同じように、ソウル中心部のクァンファムン広場では韓国の通信大手KTのパビリオンがあり、シティセンター前にはKTの競合であるSKテレコムのパビリオンがあった。さらにソウル駅、インチョン空港といった場所にも、体験コーナー用意されていた。

このほかピョンチャン近郊の農村地帯であるウイヤジ村では「花畑日向カフェ」が設置され、ここを中心に「世界初の5Gビレッジ」というよくわからないメッセージも発信されていた。5Gを利用して、イノシシなどの被害を避ける監視システムを構築するそうだが、詳細は不明だった。