今年も、カナダのバンクーバーで開かれたTEDに参加してきた。

TEDでプレゼンを行った最初の日本人が、茂木健一郎氏である(2012年)。

「技術、エンターテインメント、デザイン」の頭文字をとったTEDカンファレンスは、人類の最先端の問題を扱っている。

「広げるに値するアイデア」をスローガンに、簡潔に、インパクトのあるメッセージを届けるトークの数々。ネット上の動画や、NHKの番組『スーパープレゼンテーション』を通して見た、という人も多いだろう。

TEDのスピーチのあり方は、1つの新しい「ミーム」(文化的遺伝子)だということができる。余計な前置きなしに、いきなり本題に入るといったそのスタイルは、さまざまな会議や、大学の授業のあり方など、広い範囲に影響を及ぼしつつある。

ところで、今回、TEDには、あまり語られることがない「秘密」があることに改めて気づいた。

TEDには、実は「表の顔」と同時に、「裏の顔」がある。この2つがバランスをとって、全体として創造的なエネルギーを保っている。そのことに目を開かされたのである。

TEDの「裏の顔」とは一体なにか? それは、会議の最後に必ず行われることになっている「レビュー」(振り返り)のセッションである。

ユーモラスに、愛情を持って、時には辛辣に、トークの全体像を振り返る。言いすぎてしまったスピーチを茶化したり、政治的に問題だった内容を批評したりして、客席が笑いに包まれる。

TED全体を組織しているクリス・アンダーソン氏によれば、このユーモアに満ちた「振り返り」は、会議に欠かせないものである。実際、最後に、そのようなかたちで会議全体が「相対化」されることで、大切なバランスが取り戻されるように感じる。