元気なうちから手すりをつけるのはNG
介護保険を利用すれば、家に手すりをつけることができます。本来は、親が手すりをつけてほしいと言ってきたら、本当につけるべきなのか、つけるとしたら、どこにつけるべきなのかを、まずケアマネジャーに相談します。
その結果、必要だということになったら、福祉用具専門相談員が家に来て、ご本人の生活を見立てたうえで、どこに、どれくらいの高さの手すりをつければいいのかを決めます。
しかし、多くの子どもは本人がつけてほしいとひと言も口にしていないうちから、「将来、歩くのが覚束なくなったときに転ばないように」と、先回りをして手すりをつけようとします。まだ、手すりなどなくても十分歩けているのに、です。
でも、足元が覚束なくなってきたとしても、その解決策が手すりがベストかどうかはわかりませんよね。杖かもしれないし、歩行器、シルバーカーかもしれません。しかも親が転ぶのが不安だからと、子どもがその不安を解消するためにつけた手すりが、親のために使われないどころか、障害になることもあるのです。
まず、手すりをつけると、せっかく今まで何も使わずに歩くことができていたのに、手すりが必要な歩き方になってしまいます。それに、どこに手すりが必要になるかは、腰が痛くなるのか、膝に痛みが出るのか、使う本人の状態によって変わってくるはずですよね。
むしろ転倒を誘発するおそれもある
必要じゃないときにつけても無駄になることがありますし、実際、一度つけた手すりを外すことはよくあります。しかも、つけ方を間違えると、転倒防止どころか、転倒を誘発してしまうことさえあります。
廊下に手すりをつければ、当然、手すりの分だけ通路の幅が狭くなりますから、手すりに体をぶつけて転ぶこともあるでしょう。手すりの両端をちゃんと処理していないと、特に冬場などは、上着の裾などを引っかけて転んでしまうこともあります。
よく、リビングなどに座面が回転する椅子があるのを見かけますが、これなども高齢の方に優しいようでいて、実は転倒を誘発する箇所だったりします。ああいうところにふっと手をついて、転んでしまうのです。私たちがそういう話をすると、家族は「じゃあ、回転椅子を全部処分してください」となります。
でも、親が転ばないように子どもがあれこれ対策を取っても、転ぶときは転びます。転ぶかもしれないけれど、何か取りたいものややりたいことがあるから、頑張って立ち上がろうとしているわけです。それを、転んだら困るからと、「お母さん、椅子から立ち上がらないで」と制止するのは、親のやりたいことを奪ってしまうことになります。
本当に親のことを思うなら、親の好きにさせてあげませんか。