自分で買い物に行けるのなら、行かせてあげたほうがいい

親が電話でそういう人を呼んでしまうのも、家に上げてしまうのも、結局は寂しいから。たとえ少々高くついてしまったとしても、「それで親の寂しさが紛れたんだから……」と考えられれば、子どもの気持ちも少しやわらぐのではないでしょうか。

また、よく詐欺に遭ってしまった親を叱る子どもがいますが、悪いのは詐欺をするほうであって、親ではありませんから、責めないようにしてください。

ある娘さんは、1人暮らしをしている認知症の母親の実家で、冷蔵庫を開けてびっくりしたそうです。1人ではとても食べ切れない量の4個入りのベビーチーズが、庫内にあふれんばかりに積んである。それなのに、スーパーマーケットに行ってまた同じチーズを買ってきてしまうと頭を抱えていました。

こういうケースはよくありますが、私は「いいじゃないですか、行ってもらったら」とお伝えしました。いつも行くスーパーが同じだったとしたら、それはチーズがほしいのではなく、誰かお友だちと会って話をして寂しさを紛らわせたいからです。

実は、スーパーに買い物に行くことは、デイサービスなどに行くよりよっぽどいいケアになります。迎えの車が来るわけでもないのに、自分の足で自ら外に出て、社会的な場所で人と接点を持って、会話をして、自分で荷物を詰めて帰ってくる。ケアの要素が実にたくさん入っています。

無理やりデイサービスに連れて行くより、ずっといい経験になります。

「寂しい」という感情をなくすことは難しい

ですから、チーズが家に何個たまろうが、賞味期限切れになろうが、いいじゃないですか、と思うのです。冷蔵庫に入り切らなくなったら、娘さんが持って帰ってもいいし、こっそり捨ててもいいんですから、どんどん買い物に行ってもらいましょうよ。

親が訪問販売員や保険の勧誘員を家に上げてしまうのも、スーパーに行って同じ物を買ってきてしまうのも、理由は同じ。寂しいからです。そして、どんな人であれ、誰かと話すことによって、その寂しさがやわらぐからです。しかし、そもそも寂しいという感情をなくすことは難しいものです。

それなのに、多くの人が、「年老いた父や母に、寂しい思いはさせたくない」と、子どもがなるべく一緒にいることで、その寂しさを埋めてあげようとします。でも、こういう関わり方をしていくと、お互いによくありません。ならば、別の形で親の寂しさを軽減する方法を考えませんか。

たとえば、介護保険で利用できる通所リハビリテーションやデイサービスなどは、その寂しさをやわらげるサポートをしてくれると思います。あるいは、地域包括支援センターは、高齢者が人との関わり合いを持てるよう、趣味のサークルや健康体操教室などを開いています。健康体操教室を見ていると、体や手を動かさず、楽しそうにおしゃべりに夢中になっている高齢者の方たちを見かけますが、それでいいと思います。

写真=iStock.com/kazoka30
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もちろん、なかには「行ってみたけれど、やっぱり人と関わるのが苦手」と言う人もいますが、それは子どもがどうこうできる問題ではありませんから、無理強いは禁物です。