それは、サピックスの5年生(新6年生)に松谷さんがこのドラえもん問題を授業で出してみたときのことだ。すぐにある子供が「(ドラえもんは)自分で成長しない」と発言をした。すると別の子が「ビッグライトを使えば大きくなれるよ。だから、成長っていえる」と反論した。ところが、最初に答えた子はこう再反論したのである。「生物の成長を細胞の増殖とすれば、(ビッグライトで大きくなる)ドラえもんは体内の部品1個1個が拡大するだけなので、成長とはいえないよ」。この5年生のやりとりを目の当たりにして、松谷さんも驚いたそうだ。

また「ドラえもんは交尾しないから生物ではない」と生殖に着目する子供もいた。これに対しても、「ドラえもんがフエルミラー(ドラえもんのひみつ道具の1つ)を使って自力で分身を作りだすことは可能だから、繁殖行為とみなしてもいい」といった機転の利いた意見が次々に湧き出てきた。子供たちの当意即妙な受け答えや思考力は想像以上だったようだ。

松谷さんいわく、こうした記述問題は、正解・不正解だけでなく、採点者の心をときめかせる解答内容であるかどうかも採点のポイントではないかという。

「記述問題の正解は1つではありません。大事なのは先生が単なる“マル”ではなく、思わず“ハートマーク”をつけたくなる解答を書けるかどうかです。“ハートマーク”とは先生が『この子に教えてみたい』と思うこと。好奇心と科学的素養と表現力のある子供を発見したいからこその記述問題です。いわば記述問題を通して、先生は受験生に面接をしているんですね」

麻布の試験に精通する関係者によれば、理科の配点は40点満点で1問1点だが、記述の場合は、正解・不正解だけといった採点ではなく「得点に小数点がつくことがある」という。つまり、同じ正解でも、0.1点から1.0点までの幅があるということだ。

中学入試全体を見渡すと、こうした記述問題は昨今顕著に増加している。その理由は選択式問題の場合、消去法によって選択肢をある程度絞ることができ、正解しても本当の意味で理解しているかはわからない、という認識が中学校側に定着してきたためだ。

「今年は記述問題に加え、図示をさせる問題もこれまで以上に増えました。トンボやろ過装置などを描け、といった出題がありました」(松谷さん)