孤立した女性の立場を考えられていなかった

――現在も同じ考えですか?

ゆりかご設置を許可したあのとき、預け入れる女性の背景を考えることができていたかと問われれば、私にも反省すべき点があります。たとえば、検証報告書の見出しにもなっている「安易な預け入れ」という言葉。これを最初に使ったのは私だと思います。

赤ちゃんポストという機能によって、救われる命があるのか、それとも安易な預け入れによる遺棄を助長するのか、対立点を明確にするために使ったワードでした。でも、今振り返ると、安易な預け入れという表現は、ゆりかごに預け入れなくてはならないほどに孤立した、あるいは追い詰められた、女性の立場について考えられていなかったと思います。女性への視点が足りなかったことは率直に認めなくてはなりません。

赤ちゃんの命を救いたい、でも、出自を知る権利も担保したい。私は二兎を追ったのだと思います。ただ、出自を知る権利を担保することを考えるとき、同じくらい、女性の背景にも目を向けなくてはならなかったと今は思います。

内密出産制度には賛成だが、やり方は「乱暴」

――慈恵病院ではゆりかごの運用と並行して、2021年12月から「内密出産」の受け入れを開始しました。(*母親が病院の予め決められた職員にだけに身元を明かして出産することができる仕組み)

筆者撮影
慈恵病院が受け入れた内密出産は、24年9月末時点で36件に上る

ゆりかごには、子どもの出自を知る権利を担保できないという致命的な問題がありました。ですので、私が市長を退任した後の第4回検証報告書は内密出産の制度化を検討するよう国に提言しています。

内密出産であれば、親の情報を管理することができるという前提です。私は内密出産の制度化に賛成の立場です。ただ、内密出産を開始したときの慈恵病院のやり方はやや乱暴に見えました。

――乱暴とはどういった意味でしょうか。

慈恵病院が内密出産の実施の意思を示したとき、熊本市はゆりかごのときと同じように、現行法に抵触しないか、さまざまな角度から検証し、国に問い合わせていました。

国の反応は、ゆりかごのときと同様に、「現行法には抵触しない」というものでしたが、熊本市は「抵触しないとは言い切れない」として、慈恵病院に内密出産の受け入れを自粛するよう文書で伝えました。しかし、慈恵病院は強行突破して内密出産を始めました。

――「ゆりかごはダメだが内密出産はよい」という検証部会の言葉を受けてのことだと慈恵病院の蓮田健理事長は述べています。

それは、内密出産の制度化がされてから、という意味だったはずです。いずれにしても、慈恵病院と熊本市の意思疎通がはかれていないのは問題だと思いました。