「ランドパワー」から「シーパワー」国家へ

まず、この本で劉大佐は「軍事闘争の重点と重心を海洋に移さなければならない」「強大な制海権を手にするために、強大な海軍が必要」だと中国の海軍力の増強を説いています。

古くから中国は陸上において国力を伸ばしてきた国家であり、海戦より陸戦が得意な「ランドパワー」=「大陸国家」でした。このため台湾をはじめ太平洋に進出していくにあたって、海軍力を増強して「シーパワー」=海洋国家へと自らを変貌へんぼうさせようとしているのです。

日本やアメリカは、歴史的に海を国力伸長のために活用し、海軍の力が強い海洋国家です。今の東アジアの状況は、このシーパワーとしての日米と、ランドパワーからシーパワーへの変貌を遂げようとする中国がにらみ合う構図になっています。

そもそも台湾をめぐる戦争は、主に海が戦場になるでしょう。もちろんサイバー戦や情報戦、航空戦、ミサイル戦、海岸での戦闘を含む陸上戦など、様々な戦いが想定されます。ただ、台湾島という物理的な土地の制圧を目指す以上、やはり戦いは海が中心です。

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劉大佐の「平和」認識は日本人とは違う

そうは言っても、中国も兵士の犠牲は避けたいので、台湾をまずは平和的に統一するのが理想です。習近平主席も基本的には「平和統一」を掲げています。香港ホンコンに対してそうしたように、大砲の弾は一発も撃たず、兵士の犠牲を一人も出さず、共産党独裁の一部に組み込むのです。

もちろん「平和統一」と言っても、あくまで軍事力や警察力などの物理的暴力に裏打ちされた統一であり、武力での強制です。この点、劉大佐は本の中ではっきりと、海軍力を中心とした軍事力が必須であり、「武力という手段がなければ、平和的統一を実現することは難しい」と「平和統一」の内実を率直に書いています。

そもそも「平和」についての劉大佐の考え方が、日本人のそれとは全く異なります。中国政府も建前として平和の重要性を強調していますが、実は、根底には極めて現実主義的な「平和」認識があるのです。劉大佐は「『利益』と『国力』こそが、国際関係の本質なのだ。国力を持たずして、誰が平和を与えてくれるだろうか?」と問い、日本のいわゆる「平和主義」とは、いわば真逆の論理を展開します。もはや台湾統一にあたっては、平和は優先されないとすら言い放つのです。

少し長いですが、引用します。