マレーシアに決めた理由はまず、日本からの近さだ。飛行機で約7~8時間の距離と比較的行き来しやすく、時差も1時間しかないので日本の家族とも連絡を取りやすい。子どもに学生ビザが出ると、付き添う親にもビザが発給されることが多いのも魅力だった。
マレー系や中華系、インド系らが暮らす多民族国家で、英語を日常的に話す人が多い。娘には言語や宗教、価値観などが異なる人が集まる社会で、多様性や違いを受け入れ、尊重することを学んでほしいという思いもあった。
かつてアメリカの大学で学んだ母親(35歳)は、マレーシアで得られる教育に期待を寄せる。
「日本の教育は先生が一方的に授業を進め、『一つの正解』が重視される。英語力だけなら大学留学でもいいと思うが、娘には教科書通りに覚えることを重視する日本の教育ではなく、色々な価値観を持つ人と一緒に学びながら、自分を表現する力を磨いてほしい」
小学生で単身留学「意見求められる環境で」
さらに、子どもを単身で留学させる家庭もある。九州地方の医療職の女性(41歳)は2023年2月、公立小に通う11歳の娘と一緒にマレーシアを訪れた。豪州式のインターに5日間体験入学し、新年度がはじまる24年1月から通うことを決めた。弟がまだ幼いため両親は日本にとどまり、娘単身での留学になるという。
マレーシアに決めたのは、学費や物価などを考えた「現実的な選択肢」だったからだ。小学1年生の夏休みに娘が1カ月間、短期留学したオーストラリアは、今回費用面で手が出なかった。マレーシアのこの学校はキャンペーン割引で、学費と寮費を合わせた年間費用は200万円弱で済む見込みだ。
女性は夫の転勤で関東から九州に移り住んだ。今の日本社会では出産や育児、家族の転勤で女性は人生を左右されがちになる。娘には自分とは違う教育を受けさせ、選択肢を広げてあげたいと考えている。
両親は英語が堪能なわけではないが、娘は九州で英語環境で学ぶ幼稚園などに通って力をつけた。卒園後もオンライン英会話や英語での読書を続け、海外の友人とも英語での日常会話には困らないという。「一人でも大丈夫」と留学を心待ちにしている様子だ。
娘の高校卒業まで、家族は別々に暮らす予定だ。女性は寂しさと同時に心配も尽きない。
日本で波風立てないように生きるほうが楽かもしれないが、より自分の意見を求められる海外の教育環境で学ぶことが娘のためになるはずと考え、留学を後押しする。
「将来の仕事に結びつかなくてもいい。視野を広く持ち、自分の好きなことを見つけてほしい」
そう願って、一人マレーシアに渡る娘を見送るつもりだ。