他の女性僧侶から性被害者への冷ややかな声が暗示する「闇の深さ」

叡敦さんは所属する天台宗に2人の懲戒を申し立てた後も、2次被害に苦しめられた。佐藤弁護士は憤る。

「今年2月以降、叡敦さんの元に他の宗派の尼僧を名乗る人物から、電話が3回ありました。『こんなことはやめろ、迷惑だ』と言われました。また、ネット上で叡敦さんを励ましたある尼僧さんのことを『売名だ』とも言っていました。告発するだけでもストレスを感じているのに、(仏教界)内部の尼僧の人から言われたことで、叡敦さんは自分のやったことが迷惑をかけているのではと悩んで、具合を悪くしました」

さらには今年4月の上旬には、別の人物と思われる尼僧が面会を求め、やはり、同様のことを言われたという。その尼僧は叡敦さんに直接、次のように言及した。

「コロナ禍によって宗教離れが加速しているのに、尼僧の世界にとってはほんとうに迷惑な話です。今すぐ申し立てを取り下げなさい」
「こんなことをしてもしかたないでしょ。世界中の尼僧が非常に困ることになることをよく考えなさい」
「弁護士を通じて和解しなさい。どこかお寺を与えてもらって話を収めるようにしなさい」

叡敦さんはこうした動きに対してどんな思いだったのか。

「自分のやっていることが迷惑なのだろうかと、悩んでいます。加害者に長期間、SOSを出してきたがどうにもならず、天台宗に訴えれば、隠蔽され続けてきたことが解決に向かうのではと信じてきてやってきました。しかし、実際の聴取では加害者への“かたより”を感じます。閉じられた宗教界の中では、上下関係が厳しく、なかなかそれを覆すのは難しいと思います。しかし、宗教の中でこのような被害を受けている人のためにも、宗教を広めていくためにも、私はやめるわけにはいきません」

撮影=鵜飼秀徳
佐藤倫子弁護士(左)と叡敦さん

一連の内部からの批判的な声を踏まえ、佐藤弁護士はこう述べる。

「大阿闍梨が超絶偉いことが、よくわかりました。なので、天台宗の内局の人が調査しても、正しい判断ができるのは難しいと思います。ぜひ、第三者委員会を立ち上げ、公正な判断をしてもらいたい。今後、民事訴訟に踏み切るかどうかについては、加害者2人の懲戒、擯斥ひんせきの有無をみて検討したい」

次々に明らかになる天台宗の醜聞。ある天台宗関係者は「A氏の破門は免れないだろうが、宗門が大阿闍梨をも追放するのは難しいと思う。しかし、それでは世間は許さないだろう。天台宗始まって以来のスキャンダルだ」と話した。

筆者は、仏教界の「権威主義」のすべてを否定するつもりはない。厳しい修行と徳を積み、尊敬を集める僧侶も少なくないからだ。しかし、その一方で、残念ながら、僧侶である前に「人として」問題を抱える僧侶がいることも確かだ。

天台宗には、速やかに自浄作用を働かせることが求められる。他方で理解者であるべき女性僧侶の中から、性被害者に対する冷ややかな声が上がっていることに、本件の「闇の深さ」を感じざるを得ないのも正直なところである。

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