園内には日本画家・千住博のリトグラフも
くり返しになるが、コビーではどの園でも食器は陶器、磁器、ガラス製品を使っているが、本物を使って、正しい持ち方で箸を使うから食事がおいしくなると伝える。これは子どもたちだけではない。
事務所で出すお茶、コーヒーでも陶器の茶わん、カップを使用する。設立当初、同社のオフィスではプラスチック製のカップホルダーでコーヒーを出していたことがあった。だが、典子がそれを見つけて、息子の小林を叱った。
「本当にお客さまをもてなそうと思ったら陶器のカップを使うはず。ちゃんとしたものにしなさい」
コビーでは本物を使うだけでなく、本物に触れさせる。子どもたちがいる部屋に飾ってある絵は日本芸術院会員、日本画家の千住博のリトグラフだ。1点あたり数十万円はする。子どもたちはじーっと眺めている。ポスター、絵画のコピーではなく、本物を見せる。本物には存在感がある。いたずらしたり、破いたりしようとは思わなくなる。
「子どもだから、この程度でいい」とはしないところがコビーの保育だ。
根底には典子の哲学がある。
前述のコビープリスクールはこざきの園長、水城智恵は「お製作でもダンスでも本気で」と教わったと言う。
「春分の日」を4歳児にどう説明するか
「色の付いた紙を切ったりして窓に飾ったり、折り紙を折ったり、コビーではお製作を行います。その時でも、時間はかかってもいいから、ハサミを使って正確な丸の形に切らせます。遊びだから適当でいいということはないんです。それは典子先生が始めたことです。
ダンスでもかけっこでも典子先生は参加しました。参加したら、子どもが相手でも真剣に踊って、全速力で走りました。それは走り方を教えたいのではなく、真剣に取り組む姿を伝えたかったからです」
本物に触れさせて、本気を見せる。そして、子どもには嘘は教えない。
子どもは何でも聞いてくる。聞いて答えを知って成長する。それに対して、保育士は本気で答える。たとえば「春分の日って何のこと?」と聞かれたとする。大人でもなかなか答えられない。まして、4歳児にはどういった答え方をすればいいのか。
保育士は地球儀を持ってきて、「地球は丸い、地球は少し傾いている、地球は太陽のまわりを回っている」と教えて、最後に「1日のうちに昼と夜の長さが同じくらいになる日のこと」と伝える。子どもが春分点を理解できるとは思えない。それでも、懸命に本質を伝えれば「昼と夜の長さが同じ日は春分の日と秋分の日だ」と伝えることはできる。
正しいことを伝えておけば子どもは大きくなってから、「あの時、コビーの水城先生が言ったのはこのことだな」とわかる。子どもは先生の本気に出合いたいのだ。
コビーの保育とは手を抜かない、大人の本気を伝えることだ。