第二次世界大戦後の日本の新しいアイデンティティー

日本のコンテンツをハリウッドが魅力的に感じている理由の3つめは、「第二次世界大戦後の日本」である。広島・長崎は日本にとって暗く悲惨な思い出だが、同時に手塚治の『鉄腕アトム』や香山滋の『ゴジラ』などの世界を魅了するアイコンを生み出した。

1954年版『ゴジラ』のゴジラ(画像= Toho Company Ltd./ PD-Japan-organization/Wikimedia Commons

1952年に連載が始まった『鉄腕アトム』のアトムは原子を表し、妹はウランという。アトムが生まれたのは高度成長期に向けて原子力発電が国家事業として始まろうとしていた頃だし、同じく、1954年に公開された初の『ゴジラ』も、冷戦を背景に核兵器をメタファーにした怪獣の物語である。これらは日本の被爆体験のナラティブ(物語)であるのと同時に、原子力を解き放つ警告でもあり、日本でしか生まれなかったアイコンだろう。

広島・長崎は、西側諸国にとっては「日本の再生」の意味を持つ。戦後、日本は国際機関や人権を尊重し、途上国への支援や開発を通して国際社会に貢献してきた。再生した日本のポジティブなイメージがあったからこそ、日本の文化が戦後から2000年代の今に至るまで、アメリカや西洋諸国に広く浸透していったのだ。

4月11日に岸田文雄首相の米議会演説で笑いを誘ったエピソードが、テレビアニメ『原始家族フリントストーン』に言及したものだった。1960年代にアメリカ中の子どもたちがこぞって見ていた「フリンストーン」には「柔道チョップ」が出てくるし、『SHOGUN』のオリジナルは、1980年に放送された『将軍 SHŌGUN』というアメリカのテレビドラマだった。

他にも、日本の歴史に基づいて未来を創造した『ブレード・ランナー』(1982年)を始めとして、『ブラック・レイン』(1989年、主な日本人出演者:高倉健、松田優作、若山富三郎)、『キル・ビル』(2003年)、『ラストサムライ』(2003年、渡辺謙)、『バベル』(2006年、菊池凛子、役所広司)など、実に多くのハリウッド映画に日本の文化が刻まれている。

このように日本文化は、19世紀後半からのジャポニズム、そして、ポスト戦後は漫画、アニメ、映画、武道、禅、寿司などを通してアメリカだけではなく、世界文化の一部として長く受け入れられて来たのである。よく考えると、片づけコンサルタントとして内外で知られる近藤麻理恵さんが出演するリアリティ番組のNetflix『KonMari 人生がときめく片づけの魔法』(2019年)がアメリカ人の心をつかんだのも、こんまりメソッドの根底に流れる神道的なミニマリズムを受け入れる土壌が既にアメリカで根付いていたからかもしれない。