財部 あくまでも私の地元の例ですが、今は大人しい子が多くなり、大人に暴力を振るうような怖い子は見なくなっています。注意欠陥・多動性障害(ADHD)などが原因で授業中に立ち歩く子がいると聞くことはあります。しかし、そういう子も学年が上がると落ち着いていくので中2や中3になったら授業はきちんと成立しています。
うちのアルバイト講師で、「うちの中学は荒れていました」という子がいましたが、それで勉強ができない環境だったわけではないといいます。むしろ、「ちゃんと座って授業を聞いているだけで5をつけてもらえた」と言っていました。全国的に優秀な子が中高一貫校に進学することが増えているため、公立中学では普通に勉強を頑張っていれば上位の成績を取りやすくなっています。「やればできる」という達成感を得ることは、自己肯定感を育むためにも大きなメリットだと思います。
――中高一貫校に比べると、公立中学の授業のレベルは低いのでしょうか?
財部 先生の質については、公立も私立も基本的に熱心に取り組んでいただいていると思います。確かに、子供たちが気の毒になるような先生も少数は存在します。しかし、授業の下手な先生は私立中学にもいます。また、そのせいで子供たちが勉強ができなくなることはないと思います。公立中学にも一定数の優秀な子はいますし、授業の質に関わらず新しい知識を学ぶことを楽しんでいます。
「高校受験」にデメリットはない
――高校受験に時間を取られるのは、大学受験に不利ではないですか?
財部 公立高校の入試は学校で習った内容から出題されるため、普段から授業内容をきちんと抑えていれば負担は少ないです。公立中学の部活動は7月くらいまで続きますし、全国大会まで進めば9月頃まで活動します。つまり、高校受験に集中する期間はわずか数ヶ月です。中学で学ぶ内容は一般常識に近い知識であり、勉強を楽しくするための基礎なので、それを学ぶことにデメリットは何も無いと思います。
高校受験は、子供が自分で将来に向き合い、自身の価値観に近い学校を主体的に選ぶことができます。高校受験を終えると皆顔つきが変わり、グッと成長するのを感じます。特に偏差値40~60のボリュームゾーンの子供たちには、高校受験はメリットしかないと思います。
中高一貫校ではそのきっかけがないので、一度勉強についていけなくなると高校卒業までそのままになってしまうケースが多いのがデメリットだと思います。
――中高一貫校では6年間環境を変えられないという点は、よく考えた方がいいかもしれないですね。
財部 中高一貫校から、違う環境を求めて高校受験をするのは、余程追い詰められた子だけです。大人に例えるなら離婚を決断するようなものかもしれません。20年間で3名程しか見たことがありません。そのうちの1人は学校側に猛反対されて高校受験を断念しました。行きたくない学校にさらに3年間も通わなくてはならないのは本当に可哀想でした。
「公立中学に行っていたら、もっと生き生きしていただろうな」と感じる子は沢山います。親の希望や憧れから「この学校に入ればいい友達ができる」などと判断するのは危険です。ぜひ、お子さんの実力(地頭の良さ)、性格、友達関係などをよく分析して、適切な勉強環境を用意してあげてほしいと思います。