例えば、成人の英語母語話者は2万程度の英単語を知っていると言われていますが、映画や会話などの話し言葉は6000~7000語程度、小説・新聞などの書き言葉は8000~9000語程度を知っていれば理解できます。文法に関しても、映画で使われている文法事項の多くは日本の中学校で習うものであり、高校で習う文法事項はほとんど使用されていなかったという研究があります。

さらに、大学入試問題の約80%が中学英文法の知識だけで解答できるという報告もあります。これらの研究結果を考慮すると、母語話者のような英語力を目標とすることは、現実離れしているだけでなく、その必要性もないといえます。

今や外国語として英語を話す人のほうがはるかに多い

「ネイティヴ英語」を目指すべきでない理由は他にもあります。英語は今日事実上の国際的な共通語として用いられており、外国語として英語を話す人の方が、母語として話す人よりもはるかに多いと推定されています。非母語話者が主流で母語話者が少数派なわけですから、ネイティヴ・スピーカーのような英語力を目指すのは時代遅れでしょう。非母語話者が母語話者に近づこうとするだけでなく、母語話者が非母語話者の英語を尊重し、それを理解しようと歩み寄ることも必要です。

とはいえ、日本語訛りの発音にコンプレックスがあり、「母語話者のようなきれいな発音で話したい」という憧れを持っている学習者は少なくないようです。しかし、これまでの研究では、訛りが強いからといって、伝わりにくくなるとは限らないことが示されています。

また、「母語話者のように英語が話せれば、コミュニケーションには困らないだろう」と考えがちですが、母語話者でも意思疎通がうまくいかないことは珍しくありません。筆者はニュージーランドの大学院に留学していましたが、「アメリカの会社に電話をかけたが、こちらの発音が通じず困った」とニュージーランドの方が言っていたのを聞いたことがあります。