「阪大卒」が彼女を苦しめている

姫野桂『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)

経理の仕事においては会社によっては簿記の資格を取ると手当がつく場合もある。学生時代に猛勉強して阪大に受かったときのように簿記の資格を取らないのかと聞くと、「褒められないと勉強ができない」という答えが帰ってきた。村上さんは発達障害の苦しみも負っているが、父親との関係性も複雑であるように思える。

「父親が厳しかったので、大学受験のときも試験で良い成績をとって良い大学に入れば親も喜んでくれるかなと思っていたんです。でも今、簿記の勉強をしても褒めてくれる人はいません。モチベーションが上がらないんです」

難関国立大学である阪大を卒業してもエリートになれない。そしてつい、定型発達で、うまくいっているように見える同期と自分を比べてしまう。「阪大卒」という本来なら喜ぶべき事実が、彼女を生きづらくさせているのだ。

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