過疎化、少子高齢化が防災のハードルに

政府は2023年4月から社会構造の変化や最新の研究を踏まえて南海トラフ巨大地震の被害想定の見直しや新たな防災対策の検討に乗り出している。都はワーキンググループにオブザーバーとして参加しているが、過疎化や少子高齢化、単身世帯の増加など社会課題が重いリスクとして現れていると感じる。

見直し作業の中では、沿岸部の津波避難タワーの設置などにより、津波による死者数は大幅に減少する傾向だが、建物の耐震化が進んでおらず、約5割の建物が全壊する県もある。住宅が倒壊して逃げられないところに津波が襲うケースも想定される。特に高齢世帯や単身世帯などが取り残される状況が懸念される。過疎地は空き家の増加が二次被害を引き起こす要因となり、撤去しなければ全壊して道を塞いだり、延焼したりする。

「万全の対策」は不可能でも、備えはできる

東京大学の目黒公郎教授(都市災害軽減工学)は「桁違いの災害へ万全の対策を取ることは不可能だ。しかし、最大規模の災害に対応できなければ価値がないのかというとそうではない。一定レベルの被害を減らすために、どこまでの備えをすべきかそれぞれが考えなければいけない」と備えの重要性を説く。

宮地美陽子『首都防衛』(講談社現代新書)

東日本大震災では、岩手県・釜石湾の入り口に設置された世界最大水深(63メートル)の湾口防波堤が大きく破壊され、地震直後はハード対策が意味をなさなかったと批判もあった。だが後に対策による一定の抑制効果はあったと分析された。

目黒教授は「防波堤があったことで津波の到来を6分間遅らせ、浸水深と遡上そじょう高さを3~5割減らした。もし防波堤がなかったら、これらの値は1.4~2倍になり、被害量は格段に大きくなっていただろう」と話す。

残された時間、私たちはいかに備えることができるのか。いよいよ「国難との闘い」に向けて最終準備に入らなければならない時を迎えている。

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