日本の大学病院のいいところ

【佐藤】医者になるのなら、「人を救いたい」「人の役に立ちたい」というところがないといけません。

それから、大学病院というのはある意味では巨大な権威と権力を持っていますから、それに対する世間の反発が結構強い。それを利用して、大学病院などの既成の権威に対してものすごく敵対的なスタンスで開業するという、一種のビジネス・モデルが生まれているように思います。実際、昨今は大学病院については叩くのがトレンドになっていて、メディアで扱われるときには、マイナス面だけにプリズムが当たっています。

もちろん大学病院にはそれなりに問題がありますよ。しかし、これは実際に入院してみれば分かることだけれども、たとえば女子医大のお医者さんたちはみんな能力が高くて、横のネットワークもきちんとしています。看護師さんたちも力のある人が多い。同様に、他の大学病院でも一生懸命やっている医師たち、看護師たちがいます。

ところが過度のバッシングが行われているために、そのことが消費者――つまり患者に伝わっていません。一種、異常なマーケットになっているわけです。こうした悪意や偏見に基づく情報操作を取り除かないと、適正な医療が行われません。やはり大学病院というのはきわめて重要な医療の拠点で、それを示すことには社会的な意義があると思います。

【片岡】そうですね。

【佐藤】私は患者として、片岡先生を筆頭に東京女子医大病院のお医者さんたちに何度も命を助けていただきました。

日本の大学病院のいいところは、安い値段でみんなが平等に診察を受けることができて、なおかつお医者さんや看護師さん、あるいは医療技師さんたちの士気が適度に高い、ということです。

「使命感に燃えに燃えさかってやっていく」というのは短期的にはいいことかもしれませんが、長期的には続きません。その点、女子医大でも長期的に最適な医療システムが出来ています。持続可能なシステムがある中で、適度な競争もある。

気概だけでは成り立たない

【片岡】そこで気になるのは、やはり今のままの報酬システムで日本の医療は続いていくのだろうかということです。

これは何も医者だけの話ではなくて、官僚の人たちも昔は滅私奉公と言いますか、「自分たちが国を支えている」という気概だけでやっていたのでしょうけど、メディアが官僚叩きをするようになったら成り手は減ってしまって、今や優秀な東大生たちの多くがビジネスの世界で起業をするようになりました。

私は素人なので分かりませんが、官僚の人たちは今、相応の待遇を受けているんですか。

【佐藤】官僚の生涯所得は総合職で手取り約3億円ですから、全然悪くないですよ。外務省なら4億円から5億円くらいあります。

【片岡】それは天下りの分を入れて、ですか。

【佐藤】いや、3億円というのは天下りを抜いた額です。そのあとの天下りでは、今やいくら減ったとはいえ、1億円は取れます。そうすると生涯所得は4億円です。

【片岡】それを聞くと、人の命を預かるプレッシャーやリスクに比して医師の仕事の対価は少ないような気もしますね。

【佐藤】大学病院や地方の総合病院では、医師よりも看護師のほうが年収が高い、という事例がいくらでもあるそうですね。

【片岡】公立病院の場合、若い医者よりも看護師長のほうが年収が高いと聞いたことがあります。