「大好きです」と言われて嬉しくない人はいない

前項の対談相手への好意の見せ方にも重なりますが、もともと尊敬の念を持っているならなおさら、それを相手に表さない手はありません。「大好きです」「ずっと会いたかった」と言われて、嬉しくない人はいません。中には、こちらの勢いに引いてしまう人も少数いるかもしれませんが、黙っていたら何も始まらないのですから同じことです。

気持ちを伝えたあとは、たとえどんなに親しくなっても、礼節をわきまえること。私は、女学校教師をしていたこともある母から「長幼の序」は叩き込まれていたので、そういう点での失礼は少なかったと思います。

何かをしてもらったり、ご馳走になったりした時には、必ず自筆のお礼状を送っていました。これを雑誌『噂の眞相』(2004年休刊)に、

「林真理子が直木賞の選考委員になるために、大御所作家に手紙を送りまくって媚びている」

と書かれたことがあります。お礼の手紙を送るのは私にとっては当たり前のことなので、「いったい何が悪いわけ!?」と驚きながら腹を立てたものです。

お菓子の力は絶大

人と近づきたい時に、まず私が使うのがお菓子です。単純なようですが、お菓子の力は絶大で、とくに女性を味方につけてくれる。

「もらいものですけど……」

と、いただきものを渡すのでもいいし、ドーナツなどでも買っていくと、自然な会話のきっかけになりますし、人間関係が一歩前進します。

写真=iStock.com/itakdalee
※写真はイメージです

日本の手土産文化というのは、なかなか侮れないものだと思います。たとえ初対面同士でも、渡す側も貰う側も双方が手土産によって緊張がほぐれる。

「自宅の近所で評判の店なんですけどね……」
「あら、どちらにお住まいなんですか」

林真理子『成熟スイッチ』(講談社現代新書)

など、ちょっとした、なんでもない会話がその後のやりとりをスムーズにしてくれる。「ほんの気持ち」の手土産の力は、「ほんの」どころか絶大です。

日大でも、お菓子をきっかけに少しずつ仲よくなって、

「はっきり言いますけど……」

と大学内の問題について忌憚のない意見を言ってくれる人たちが増えてきました。そういう時は、「本当にありがとう」とお礼を伝えたあとで、せっかく教えてくれた問題が出来るかぎり早く改善するように動くようにしています。勇気を出して言ってくれたのですから、絶対にその信頼を裏切りたくありません。