戦車部隊が歩兵の兵器で撃退される時代

2014年のクリミア侵攻から2年後、ロシア側のコーディネートで東部ドンバス地方に入った。その当時、民間軍事会社「ワグネル」の傭兵たちと話す機会があった。彼らのなかには、ロシア軍を退役した元将校や元兵士が多い。ある兵士に「なぜ傭兵になったのか」と聞くと、「ウクライナで一旗揚げれば、土地がもらえる」と教えてくれた。

2022年の今から思うと、兵士たちも市民を虐殺するような殺伐とした空気はなかった。と同時に、当時とは隔世の感があるのは武器の技術革新だ。

今回の戦争の開始早々から有名になったのは、アメリカが開発した歩行携行式多目的ミサイル「ジャベリン」である。本来は戦車などの装甲車両用に開発されたのだが、建築物やヘリコプターも攻撃できる。射程は約2000メートル、内蔵コンピューターによる自動誘導によって標的に着弾するので、高い命中率を誇る。

アメリカの最新兵器がウクライナを救った

ロシアの戦車は1台1億数千万円から約4億円のものが主力で、最低でも乗組員3名が必要になるため、2名で運用でき、命中精度が高く安価なジャベリンの方が、武器としてのパフォーマンスは数段上である。ロシアの戦車軍団のキーウ侵攻を止めたのはジャベリンの力が非常に大きく、「ウクライナの守護天使」とあだ名がついた。歩兵が戦車に圧倒されて手も足も出ない時代は、もはや終わっていたのだ。

佐藤和孝『ウクライナの現場から』(有隣堂)

安価なドローンの活用が進んでいることも、今回の戦争の特徴だ。アメリカが供与した自爆型ドローン「スイッチブレード」は、1機71万円という低価格である。小さなものなので破壊力はさほどではないが、戦闘機やヘリコプターとは比較にならない安さで、空からの攻撃を搭乗者なしで可能にしたのだから、まさに驚嘆すべき技術である。戦争の常識が明らかにこれまでと変わっている。

そして何より、ロシア軍の侵攻を阻止し、軍用機による空襲などを受けなかった首都キーウが、巡航ミサイルや砲撃によって、公共施設やインフラ、集合住宅までが破壊されたこと。市民は地下鉄構内やシェルターに逃げ込み、1カ月にわたる砲撃に耐えながら、早期に日常を取り戻したことも、戦争の様相が変わった点である。