「日本は20年間、ロシアの弱さに最大限につけ込もうとした」
次いで発言したのは、モスクワ国際関係大学ユーラシア研究センターのイワン・サフランチューク所長です。
私も、ニコノフさんが述べたことが全面的に正しいと考える。ただし、どのように安倍氏についての記憶が歴史教科書に書かれるかについては、安倍氏によってではなく、これから日本がどのような路線を歩むか次第だ。
私にとって安倍氏は、以下の点で重要だ。日本は長い間、米国によって設定された地政学的状況を受け入れていた。対して、安倍氏は現代世界において、特にアジア太平洋地域において、日本の場所を見いだそうとした。安倍氏は米国との同盟関係を維持しつつ、日本の独立性を確保しようとした。
安倍氏のロシアに対する姿勢は、非常に興味深かった。安倍氏が権力の座に就くまでの20年間、日本はロシアの弱さに最大限につけ込もうとした。この時期、日本は親西側的外交を主導した。この論者はすべての分野で、ロシアの弱点につけ込もうとした。日本は、際限なく提起するクリル諸島(北方領土に対するロシア側の呼称)問題を解決することができず、そのため日本には不満がたまっていた。
安倍氏は、ロシアが強くなることに賭けた。強いロシアと合意し、協力関係を構築する。アジア太平洋地域においてもロシアを強くする。それが日本にとって歓迎すべきことだ。地域的規模であるが、アジア太平洋地域において多極的世界を構築する。ロシアの弱さにつけ込むという賭けではなく、ロシアの力を利用し、強いロシアと日本が共存する正常な関係を構築することだ。これが、安倍が進めようとしていた重要な政策だ。
(2014年に)クリミアがロシアの版図に戻ったとき、日本では再び西側諸国のロシアに対する圧力を背景に、ロシアが日本に対して何らかの譲歩をするのではないかという発想がでてきた。私の考えでは、安倍氏は賢明な政策をとり、西側諸国の単純なゲームが成り立たないことを理解し、ロシアの戦術的弱点につけ込むという選択をしなかった。そして、ロシアと長期的で体系的な関係を構築しようとした。
もちろん現在の日本政府は、別の政策をとっている。国際関係で米国との連携を強め、ロシアとの関係が著しく後退している。日本の主張は力を失っており、制裁でロシアを弱らせるという方向に傾いている。
そのため短期的に、安倍氏の遺産は遠ざけられる。しかし、中長期的展望において、安倍氏が提唱した概念の遺産、すなわち日本が世界の中で独立して生きていかなくてはならず、どのようにアジア太平洋地域の強国との関係を構築し、強いロシアと共生するのかという考え方は、日本の社会とエリートの間で維持される。
いずれかの時点で、日本はこの路線に戻ると私は見ている。なぜなら、それ以外の選択肢がないからだ。
凶弾に倒れた他国の政治家を追悼するという番組の趣旨を差し引いても、非常に冷静で好意的な評価が述べられたと思います。この番組で語られた安倍氏に対する評価は、プーチン大統領を含むロシアの政治エリートの見解と見て、さしつかえないでしょう。