人口の多さと広大な国土は「もろ刃の剣」

【彦】でもさ、共産党一党しかないといっても、そのなかの偉い人は変わるわけでしょ。日本でも首相が変われば少しは政策も変わるじゃない。そんなに時間がかかりそうな大きなプロジェクトがうまくいくのかな?

【うめ】中国共産党でいちばん偉い人は「総書記」ね。中国では総書記が、国のトップである「国家主席」を兼ねることになっているわ。総書記には任期はないけれど、国家主席は「2期10年」と任期が憲法に定められていたのよ。それに従えば、いまの国家主席の習近平しゅうきんぺい(シーチンピン)さんの政権は2023年までということになっていたわ。でも、習近平さんは憲法を改正して、国家主席の任期を撤廃してしまったの。習近平政権が憲法を改正したり、政敵を排除したり、権力の集中を進めるのは、もともと支持基盤が弱い、つまり味方が少なかったからだともいわれているわねぇ。

【ジョンソン】そうです。経済が少しでも不安定になったとき、味方が少なければ反対勢力によるクーデターのリスクも高まりますから。

【うめ】中国にとって、人口の多さと広大な国土はもろ刃の剣なのよ。地域ごとの貧富の差は大きく、GDPが世界2位の大国だけれど、平均的な豊かさを示す「ひとり当たりのGDP」で見ると62位なのよ。こうした状況に不満を持つ国民も少なくないので、政府は高所得者への締めつけを厳しくしたりして、庶民の感情の動きに気を遣っているわ(※5)。他の国と陸続きの大陸国家だから、安全保障は常に強化しなければならないし。

【彦】そう考えると、中国はいまがいちばん国力が強い時期なのかもしれないね。アメリカに追いつく可能性は小さいのかもな。

※5 中国政府は国民全体を豊かにする「共同富裕」を目標にしています。そのため、巨大企業の経営者や芸能人の税逃れを以前よりも厳しく罰しています。

中国は監視社会なのか

中国は、日本やアメリカ、ヨーロッパほどプライバシーの保護を重視しない社会です。政府はあらゆるデータを集め、それを活用しています。

たとえば、一部の都市では、道路を赤信号で渡ると監視カメラで撮影された画像と政府が保有するデータの照合が行われています。それにより、違反者の氏名や職業まですぐに特定されます。怖いと思うかもしれませんが、このシステムによって逃走中の犯人の逮捕につながったケースもあります。

政府が国民の情報をすべて管理するしくみは、日本人にはあまり理解できないかもしれません。しかし、中国を真似しようと検討している国もあります。もしかすると、100年後には民主主義が過去の産物になっていて、中国のように政府が大きな力を持つ国が中心になっているかもしれません。ただ、ひとついえることは、人も国も間違えます。国が大きな力を持ちすぎると、間違った方向に進みはじめたときに止める方法がなくなります。国がおかしな方向に向かっているときに声をあげられる個人の自由はとても貴重です。