会社を辞めるという選択肢を有効に活用しない日本人労働者は、安定と引き換えに自身の給料が抑えられ、時にブラックな環境に甘んじなくてはならないのも道理である。

労働者にとって「辞めてやる」という選択肢の無い終身雇用制のコストはあまりに高い、と私は思っている。

「過去最大の大幅増」でも見劣りする最低賃金

8月1日、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は、2022年度の最低賃金の目安を決めた。全国平均で時給961円、上げ幅は31円(3.3%)と過去最大の引き上げ額、伸び率となった。

日経新聞によれば、全国平均の961円は西欧諸国と比べてかなり見劣りするらしい。執筆時点で英国1522円、フランス1456円、米国ロサンゼルス市2095円、ドイツは1610円なのだ。しかし、この事態も、先に述べたように、日本のGDPが世界段トツのビリ成長なのだから致し方あるまい。日本が相対的にどんどん貧乏になっているのだから。

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なお、最低賃金を上げれば経営者にとって日本人労働者は魅力的でなくなり外国人労働者に取って変わられてしまう可能性がある点には注意が必要だ。

終身雇用制の日本では、経営者は一度上げた従業員の給料を下げるのも、クビにも容易にはできない。日本人労働者は、外国人労働者と比して、仕事獲得競争でハンディキャップを背負っているのだ。幸いにも日本人は勤勉・誠実だから今は多少のコスト高でも雇ってもらえるのだろうが、それにも限界がある。

以前、日本の労働組合は経営者と利益の分捕り合戦をしているとの前提で団体交渉をしていたのだろうが、グローバル化した現代では事情が異なる。現代の日本の労働者は経営者と戦っているのはなく、外国人労働者と仕事を奪い合っているとの認識が重要だ。

「日本は世界最大の社会主義国家だ」

こう考えてくると、政府のやるべき仕事が見えてくる。

それは、最低賃金を上げるよう中央最低賃金審議会に圧力を強めることでも、企業に給料を上げるよう要請することでもない。それらは社会主義国家が注力することであり、資本主義国家では枝葉の問題だ。

政府がやるべき第1は「GDPを上げる努力をする」こと。これに成功すれば労賃問題だけでなく、国の大借金や保険の財源問題など現存する多くの問題が解決される。

GDPを上げるのは、逆説的なようだが、政府が「出しゃばらないこと」に尽きる。詳しくは他の機会に譲るが、要は社会主義的経済運営を真の資本主義国家運営に変えることが不可欠である。