サイコパス気質がDNA伝播で有益に働くケースがある

サイコパス気質は一体なぜ人類の進化の中で滅亡しなかったのか?

妹尾武治『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』(光文社新書)

実は感情を抑制し合理的に自己の利益を追求することは、DNA伝播でんぱにとって有益に働くケースがあったと考えることができる。極端な例ではあるが、自己利益のための殺人がDNA伝播にとって効果的であるとする論文が存在する。

ベネズエラ南部(ブラジルとの境)のヤノマミという部族では、25歳を超える男性の44%に殺人の経験がある。この時、殺人経験ありの男性では、平均の妻の数が1.63人、子供の数が4.91人となるのに対して、殺人経験なしの男性では、平均の妻の数が0.63人、子供の数が1.59人と大きく低下することがわかっている。

つまり、ある種の人間同士の競争においては、暴力や犯罪によって権利を強く主張することが有利に働いてしまうという事実がどうもありそうなのである。暴力的で積極的な他者への介入が、殺人と婚姻のチャンスを同時に上げているのである。

ちなみに、ヤノマミは新生児が生まれた瞬間、人間として育てるか精霊として天に還すかを判断し、天に還す場合、バナナの葉に包んでアリ塚に置き、そのまま殺してしまうという風習も持っている。この文化は犯罪とは一概にはいえないが、価値観として興味深い。日本人からすれば、明らかに正すべき文化(悪習)といえるかもしれないが、ここまで述べてきた通り、殺人でさえも文化や多数派・少数派といった要因によって、肯定されうるのが人間社会なのである。

DVは「脳の欲望」かもしれない

他にも、2018年8月に「ネイチャー・ヒューマン・ビへービアー」に掲載された論文も興味深い。この論文では、ボリビアのアマゾンに住むチマネの五つの村の異性愛の女性105人にインタビューによる調査を行った。

その結果、婚姻関係にある親密なパートナーからの暴力を受ける女性たちは、暴力を受けない女性たちより、平均して多くの子供を産んでいることが判明した(なお、この「暴力」には性暴力も含まれているため、暴力が直接的な子供が増える要因ともなっていた)。近親者間暴力が子の数を増やすように作用している可能性があるのである。つまり、DV(ドメスティックバイオレンス)はDNAの伝播に役立つからなくならないという可能性があるのだ。DVもDNAという人間の本質に操られた、意志を超えた、脳の欲望として考えることができるのかもしれない。

写真=iStock.com/Andranik Hakobyan
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もちろん、だからといって、現在の社会でDVが許容されるものだという主張では全くない。根絶されるべき問題であると思っているし、被害者の救済が望まれることは明記しておく。