低線量被ばくはわからないことだらけ

低線量被ばくがどのように健康に影響を及ぼすのかについては、「学者の間でも合意ができていない」というのが今日現在の正しい理解であると思います。歴史的には1950年代に提唱されたLNT仮説が、様々な国際的、また、国内の法規を決めるための根拠になってきましたが、その正しさは立証されたわけでもなく、また今後立証される見込みもあまりありません。

立証される見込みがないのは、低線量被ばくが引き起こすかもしれないがんの発生の頻度が少ないので、他の要因、例えば喫煙やストレス、がんの原因となる特殊なウィルスへの感染などによる発がんの合計と放射線の影響との間で発生頻度の差が検出できないことが最大の理由です。検出できない(=疫学的、統計学的に証明ができない)となると、仮に科学的真実として本当は正しいとしても、科学論文として発表されることはないのです。

LNT仮説は、今回の事故によって大変よく知られるようになりました。震災前にはほとんど専門家の間の知識の域を出なかったのは、低線量被ばくが現実社会で起きるとはまったく考えられていなかったからです。もちろん、自然放射線による被ばくはありましたが、これは地球に住んでいる以上は不可避なものであり、他の地域と比べて突出して自然放射線が多い地域以外では、あまり問題視されることはありませんでした。

そのような状況においては、放射線影響の研究者以外の、いわば「一般の専門家」にとっても、LNTがモデルであるのか、真実であるのかはあまり重要なことではありませんでした。同様に、真実の程度、つまり今回のように、本当に「直線」なのか、「しきい値なし」なのかなどが、事細かく問題になることもありませんでした。