列挙した事柄のすべては、筆者の私見でも憶測でもなく、事実と必然と常識に基づくものだ。善良な国民は、「まさか、官僚が利己的な保身や利益のために被災地の住民を見捨てたなどという非道があるはずはない」と思うかもしれない。もちろん、これらが住民の安全確保をしなかった理由だと断言することはできない。
しかし、官僚がSPEEDI情報に基づく住民の安全誘導をせず、その情報も隠し続けたことは事実なのである。繰り返すことになるが、なすべき報告がなされず、なすべき誘導もなされず、そうであればせめて公表すべきデータも公表されず、危険回避の判断基準となる防災情報が意図的に長く隠蔽され、その結果として、乳幼児を含む多くの国民が被曝したのである。
事故調査委員会から2日後の1月18日、原子力安全委員会は意外にも次のような内容を記した防災システム見直し案を公表した。
「SPEEDIは予測に不確実性が大きく、緊急時の活用は困難である」「信頼性が低いため今後は使わず、実測した放射線量などで判断する」
だが、3月の事故勃発から数カ月を経た汚染地域の環境調査結果では、SPEEDIの予測データが汚染実態とほぼ一致するほど高精度だったことが証明されている。原子力安全委員会は、莫大なコストをかけて作り上げた高精度の防災システムを今後は使わない方向で今、日本の原子力防災指針を改定しようとしているのである。
事故調査委員会の調査においては、前述の「議事録」がなければ、采配の是非を処断する証拠が不十分となりかねない。記録すべきことを記録しないことが通常はあり得ない以上、事務局である官僚が議事録を隠匿したかもしれないことを前提に、徹底的な事態の解明がなされねばならない。