カリフォルニアの刑務所では殺人犯でも社長を目指せる
2014年3月、米・カリフォルニア州。サンフランシスコから北に約30キロのところにあるサン・クエンティン州立刑務所を取材で訪れました。受刑者は約3900人。死刑囚も収容されている州最古の刑務所です。
「ハロー!」「エンジョイ(楽しんで行けよ)!」。刑務所に着いたのは昼休みの時間。バスケットボールやテニスなどをしていた受刑者が寄ってきて、私とカメラマンに声をかけます。カメラを回し始めても顔を隠さず、明るい表情で堂々と近寄ってくる受刑者もいます。
刑務所だというのに、その明るい雰囲気にびっくりしました。刑務所なのに明るい。その光景は、私がアメリカで過ごした4年間で最も強いインパクトでした。取材の目的は、刑務所内に設けられた「経営者を育成する講習プログラム」です。
所内の試験をクリアした少数の受刑者に、IT経営者による講演や講習を定期的に実施する試みです。受刑者が刑期を終え、刑務所を出た後、経営者を目指してもらおうという異例の構想です。ある投資家がこの刑務所に講演に来た時、一部の受刑者が熱心に学ぼうとする姿を目の当たりにしたのがきっかけでした。
「大きな間違いを犯し、人の命を奪ってしまった。それを償いたい。そして、いつか会社の社長になりたい」。こう語る受講生の白人受刑者は殺人罪で服役中。アプリ開発の会社を創る夢を抱いていました。講師の話を真剣に聞いている彼の姿が印象的でした。
強盗犯でもやり直しを受け入れる社会
この受刑者は顔を撮影してそのまま放送することや、実名を報じることは構わないと言います。なぜ、犯罪歴を隠そうとしないのか。アメリカでは、過去の犯罪歴をネット上で有料で比較的簡単に調べられる仕組みがあるといいます。過去を知られてしまうなら、開き直って前に進むしかないと考えているのかもしれません。
強盗などの罪で服役したレオルさんはこの講習プログラムを修了してから出所し、ネット関連企業に就職しました。レオルさんは「いつか大きな会社のCEOになりたい」と言います。
彼を採用したネット関連企業の社長は、レオルさんについてこう言います。「過去の過ちを繰り返さないという気持ちと、絶対に成功したいという思いが強い。とても謙虚で、すごい速さで物事を吸収する。素晴らしい人材です」。2日間にわたって密着取材したレオルさんは、礼儀正しく、一生懸命な姿を見せてくれました。
一度罪を犯した人間でも、罪を償った後は、大きな目標や夢を持ってもいい。そんな発想がアメリカにはあるのだと思います。やり直そうと頑張る人を認め、受け入れる社会。こうしたやり方は、再犯の防止につながるだけでなく、広い意味で、社会が人材を育成し、社会が人材を有効活用しようとする強い意志の表れです。アメリカという国のたくましさを象徴しています。