昔から続く官邸サイドからメディアへの圧力
【森】官邸サイドからメディアに対しての圧力は昔からあります。2014年に「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターが国会で強行採決した集団的自衛権関連法を取り上げた放送で、当時官房長官だった菅さんに「なぜ今まで憲法では許されないとしてきたことが容認されるとなったのか」「非常に密接な関係のある他国が強力に支援要請をしてきた場合、これまでは憲法九条で認められないということが大きな歯止めになっていましたが、果たして断りきれるのでしょうか」など踏みこんだ質問を重ねたとき、放送終了後に官邸から抗議がきて、最終的に国谷キャスターは番組を降板した。
もちろんNHKが公式にそう発表したわけではないけれど、抗議があったことは確かです。ならばその段階でアウトです。メディアに質問されて抗議する政治権力などありえない。
最近も「ニュースウォッチ9」の有馬嘉男キャスターが菅首相に日本学術会議任命拒否問題について質問したら(2020年10月の放送)、その後官邸から事前の質問項目にないことを質問したと抗議がきたと噂され、結局2021年3月に有馬キャスターは降板しました。
今のメディアは政治権力を監視できているか
この件については圧力があったかどうかは明確にはわからないけれど、12月12日付の朝日新聞が、坂井学官房副長官がこの件で「(NHKは)ガバナンスが利いていないのではないか」「NHK執行部が裏切った」と強い不満を表明したことを明らかにしています。ならば仮に直接的な抗議がなくても、NHK側の忖度が働いた可能性は大いにある。まあ僕は、こうしたケースのほとんどの場合は、圧力と忖度の相互作用だと思っています。
自分たちの意に沿わないメディアに圧力をかける官邸の体質は、安倍政権時代も含めてまったく変わってない。有馬キャスターに対して事前通告がなかったと怒ったこととNHKが屈したことが事実なら、それは日本のメディアと政治の距離をとても明確に示しています。これでは政治権力のチェックという最重要な使命を果たせるはずがない。
【望月】私は社会部の記者としていろんな大臣の会見に行っています。でも、官邸の外に出て、各大臣の会見に参加しても質問を事前チェックされることは滅多にありません。麻生太郎財務大臣や井上信治内閣府特命担当大臣(※)の会見に行っても、そうでした。
ただ先日、上川陽子法務大臣(※)の記者会見に参加したときは官邸と同じような対応をされました。ちょうど、入管法改正案(出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案)を巡り、国会で討論が続き、法務省はかなり神経をとがらせていましたが、2020年に検察庁法改正法案が見送りになった1年後の、同じ5月18日に、支援団体や弁護士、世論の強い反発を受けて衆院での法案成立の見送りが決まりました。
※大臣名はいずれも書籍執筆当時のものです。