作業費は最初の3日間で150万円、延長の2日間で約70万円

生前遺品整理会社「あんしんネット」の作業員8人がかりでゴミを捨てたが、なかなか終わらなかった。室内空間がゴミで埋まっているとまるでサウナにいるかのように蒸し暑い上に、窓はガタついて開けられず、作業員の顔に疲労がにじむ。結局、当初予定していた3日間の作業では終了せず、2日間の延長を余儀なくされた。作業費は最初の3日間で150万円、延長の2日間で約70万円。

撮影=今井一詞
現場は腐敗臭が漂い、室内の大半がゴミで占められているため長時間いられない暑さだった。作業員の顔にも疲労がにじむ。

「総額200万円を超える現場は、作業をするほうも、支払うほうもつらいものです」と、同社事業部長の石見良教さんは言う。

ゴミ屋敷に陥る人がなぜ、これほどまでに物をためてしまうのかというと、背景には精神疾患が隠れている可能性が高い。一つには、「ためこみ症」という病がある。ためこむ物は、雑誌や書籍、新聞、食料品、空き箱などさまざまで、手元にある物を将来の使用に備えて整理することができず、物が積み重なっていく状態だ。

人口の2~6%、20人に1人がためこみ傾向を持つというデータがある。病気の原因はよくわかっていないが、遺伝的な要因が大きいとされる。遺伝的なかかりやすさをもった人が、心理的にショックな経験をすると「ためこみ症」の発症リスクが高まるという。元教員の男性は、もともとこの家に両親と3人で暮らしていた。もしかすると両親との死別後に、物をためこんだり、片付けられない症状が悪化したのかもしれない。

撮影=今井一詞
ゴミは段ボールに収容し、外で待つトラックへ運び出す。

がんばっても「家族」を手にできない人がいる

ゴミ屋敷に陥る人は独居、つまり独身者が多い。

だから「結婚するべき」という指摘もされることが多い。けれども、がんばっても「家族」を手にできない人がいる。

孤独孤立を研究する早稲田大学の石田光規教授は「人間関係が『必需品』から『嗜好品』に変わってしまった」と話す。お金とネット環境があれば、生活に必要な物はほとんど手に入る。誰もが付き合いたい人とだけ付き合い、会いたい人とだけ会う社会。そうなると、人間関係において“相手を満足させる資源”に恵まれた人ほど多くの人間関係が手にできる。

「孤独でいるのもいないのもその人の自由となってしまうと、“選ばれる”ことが重要になります。特にオンラインが推進される社会では、目的から外れた人は存在しにくくなるため、『わざわざ直接会わなくても』と、人間関係から撤退させられる人が増えるでしょう」