日本国民の20%は「ゼロ資産」

【水野】正義の政治経済学』でも語ったことですが、まっとうな民主主義を実現するなら、世の中の平等性を確保する必要があります。現状の日本はどうでしょうか。1987年、1988年には国民の3%がゼロ資産でしたが、それが現在は20%にまで増えています。「貯蓄残高ゼロ世帯」が2割にのぼるのです。

水野和夫、古川元久『正義の政治経済学』(朝日新書)

一方で、日本の富豪上位50人の資産は約27兆円にものぼり、2020年から48%も増えたといいます。これだけ広がってしまった格差は、ドラスティックに是正しない限り、次の新しい時代には入れません。そのためには、税制を使うしかありませんが、今の政府にそれができるとは思えません。この点について、斎藤先生はどうお考えですか。

【斎藤】格差是正もそうでしょうし、リニアは要らない、オリンピックもやらなくていいという市民の声もあります。だとしたら、それを引き受けて立ち上がる政治家が必要になる。でもまずは、それを支える市民運動がないと政治家も判断できません。

だから僕は、政治家が変わらなきゃいけないという方向ではなく、スペインの市民運動から生まれた「バルセロナ・イン・コモン」という地域政党などの例を紹介しながら、一人ひとりの声から生まれる社会運動をつくっていこうと話しているんです。例えば、バルセロナでは、市民が自分たちで立候補者を選んでいます。

ヨーロッパの自治体が目指す「恐れぬ自治体」

【斎藤】今、ヨーロッパの自治体は、単にグローバルな大企業とか、欧州連合の言いなりになることをやめて、「フィアレス・シティ(fearless city)」、つまり「恐れぬ自治体」として市民のためのまちづくりをする方向に舵を切っています。こういう動きを日本の自治体にも波及させていきたいわけです。

斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)

実際、コロナ対応においては、自治体に権限があることがはっきりして、自治体の首長のリーダーシップの重要性が可視化されました。だから、いいリーダーを立てて、そこから変えていく。そして、そのうねりを国会までもたらそうと。コロナの1年はその可能性を感じさせる1年だったとも思っているんです。

【古川】ヒーロー的な政治家を待望するのではなく、市民運動によって新しい政治のうねりをつくりだしていこうというのが斎藤さんの主張ですね。私も民主主義社会では、政治家が一方的にリードするのではなく、お互いに意見を交わし、いい影響を与え合いながら、自分たちにとって望ましい社会をつくっていくのが、本来のあり方だと思います。

今日この場で数字信仰の話が出ましたが、世の中には数字だけでは決められないことがたくさんあります。政治の世界でも、多数決で決めないほうがいいことがそれこそ数多くあります。

社会の構成員の過半数が反対しても、すべき議論やなすべき政策はありますし、そうした少数であっても真にやるべき政策を訴える声をどう掬い上げていくかが、コロナ後の社会ではさらに必要になっていくでしょう。政治家としてあらためてその重要性を実感した座談でした。こうして常に話し合っていきましょう。

(構成=斎藤哲也)
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