また「トランプ現象」は米国だけでなく、欧州にも存在する。トランプ現象と、欧州での醜い民族主義の再台頭は同根だ。

「非キリスト教徒移民の流入」による「既得権喪失の恐怖」が既存の「エスタブリッシュメント」に対する欧州人の「怒りと不信感」を必要以上に増幅している現象は、その本質において米国のトランプ台頭と同じだ。この種の現象は今後、世界中に拡散していくだろう。

レッドカードを受けても退場しない

何故トランプ現象は続くのか。トランプは酷い人種・宗教・女性差別発言を繰り返しても「退場」しない。審判がレッドカードを出しても、観客の大ブーイングで出場が許されるなら、もうサッカーではない。こんな茶番を許している責任の一部は、売り上げと視聴率を優先する米国メディアにもある。トランプ現象の根は意外に深いのだ。

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ドナルド・トランプが強い理由は、その知性でも行動力でも資金力でもない。トランプは21世紀の情報化社会が生んだ共和党の疫病神だ。彼を支持するのは米国の非エリート層、極論すれば、白人、男性、低学歴、ブルーカラーの落ちこぼれ組だ。

過去数十年間に米国の富が一部富裕層に集中する一方、彼らの生活水準は低下した。更に、近年は彼らに代わってアフリカ、ヒスパニック、アジア系少数派米国人が台頭した。これに不満を持つ彼らは、既得権益をメキシコ系やイスラム系の新参移民に脅かされると信じ、人種差別的で排外主義的な暴言にもかかわらず、トランプ候補を支持した。

これら不満層は米国有権者の2割を占めるとの分析もあり、トランプは失速しないだろう。米国の政治評論家はトランプ現象を過小評価してきたが、こうした傾向は民主党にも見られる。

アメリカの「自信喪失」現象

過去二百数十年間、米国はアメリカン・ドリーム実現の機会を新たな移民たちに与えることによって、社会全体のエネルギーを拡大してきた。

しかしいま問われているのは、このアメリカ合衆国のエネルギーをどうやって「忘れられた白人貧困層」にも裨益させ、国家としての一体感を回復していくかである。

この試みが成功しない場合、次に来るのはアメリカ社会の「自信喪失」現象だろう。筆者に言わせれば、北アメリカ大陸の「豊かさ」はいまも圧倒的であり、現在の技術水準のままでも、米国には追加的移民を十分吸収できる余力がある。問題はそのことをいかにして草の根のアメリカ人、とくに中流以下の白人労働者層たちに自覚させるかであろう。