地方に必要なのは振興ではなく撤退戦

ある地域から人がいなくなれば、税収は減り、寂れていく。その流れ自体はどうしようもないことだし、正しいことなんですよ。

小飼弾『小飼弾の超訳「お金」理論』(光文社)

人がいないのであれば、自治体やインフラの規模も縮小して、コンパクトにしていけばいい。もちろん、その地域が寂れていく過程において、人が傷ついたり、死んだりするような事態が起こるのは問題です。そのためには、きちんと「撤退戦」をしないといけない。華々しく新しいプロジェクトを進めるのとは違い、撤退戦の担当はあまり人気がありません。だからこそ、撤退戦がちゃんとできるのはすごいことです。

例えば、北海道の夕張市は多額の財政赤字を抱えて、2006年に財政破綻しました。その後、同市は経費削減を徹底し、財政の健全化を進めています。公共サービスは低下して、市民の負担も増えるのですから、人口流出は止まりません。しかし酷な言い方になりますが、夕張市はきちんと撤退戦を行っているのです。

ここで「地方振興」と言って、国が自治体にお金を回すのは愚策です。国が支援すべきは、自治体という仕組みではなく、あくまでも「人」なんですね。医療サービスが低下して苦しんでいる人がいるというのであれば、よりよいサービスを受けられる地域へ移れるように支援するなど、人にフォーカスした施策を採るべきでしょう。

ついでに言っておくと、トップダウンによる地方振興はまずうまくいかないものです。ある地域に人が集まり、都会になっていく。その過程は、国や自治体がどうにかしようとしてコントロールできるものではありません。

都会は、どうやって都会になっていくのでしょうか?

トップダウンでお金を流し込んでも人は集まらない

地理的、歴史的な条件だったり、たまたまタイミングがよかったりと、理由は何だかんだと後付けできるでしょうが、まず人が自然と集まること。たくさんの人が集まって、好き勝手に商売を始めたりしているうちに、「何だかあそこには面白いことがあるぞ、面白いヤツらがいるぞ、お金も集まっているらしいぞ」という評判が高まってくる。

そうなると、さらにたくさんの人がその地域に引き寄せられることになり、都会が生まれるのです。トップダウンで地方に無理矢理お金を流し込んでも、うまくいくわけがない。むしろ、人が集まってきている都会の足を引っ張ることになってしまいます。この意味で、増田寛也元総務大臣が2007年に作った、地方交付税歳出特別枠はひどかった。

増田元総務大臣は、石原慎太郎元都知事を上回る金銭的被害を東京に与えた数少ない人と言えます。石原元都知事は銀行税を創設しようとし、逆に銀行に訴えられて敗訴。納付済みの税金に利子を付けて銀行に返す羽目になりました。その後、新銀行東京でも1500億円の損失を出しています。

しかし、増田元総務大臣はこの損害をはるかに上回ります。地方交付税特別枠によって、東京から他の県に流れてしまった税金は、7年で1兆円にも上ります。たくさんの人が東京に集まってきているのですから、その人たちにインフラやサービスを提供するためにお金を使うべきではないでしょうか?

一極集中はさすがに災害等のリスクを考えるとまずいですが、基本的に都市に人口を集中させるのはいいことなんですよ。

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