ITについて「私は門外漢」という人は多い。だがビジネスやプライベートを問わず、その恩恵は素直に享受するほうが賢明だ。知らないと損をする基本用語と注目のキーワードを押さえておこう。
ITによってもたらされるメガトレンドで押さえておくべき最も大きな変化は、「クラウド化」だ。これは、手元のコンピュータでしていた作業を、ウェブでつながった外のコンピュータで処理しようという考え。これまで大きなアプリケーションを動かすには、ソフトを自分のパソコンにダウンロード、インストールしなければならなかった。それがウェブ上で動かせるようになったわけだ。だが、私たちが押さえておくべきことは、クラウド化による処理・伝達の変化だけではない。ビジネスのシームレス化だ。
これまで企業は、オフィスがあり、そこに社員が集い、一緒に業務を進めるのが当然とされていた。ところがクラウドの時代には、そういったワークスタイルである必要がない。ウェブに繋がったパソコンがあれば、いつでもどこでも仕事ができる。
クラウド化の本質は「会社・社員の消滅」ではないだろうか。極論かもしれないが、場所を選ばずに仕事ができるなら、オフィスどころか会社組織を維持する必要もない。プロジェクトごとに必要とされる人員が集合離散を繰り返せばすむ。企業としても、オフィスを持たず正社員も激減すれば、多額の経費削減に繋がるのでメリットだらけだ。
つまり、ITのクラウド化は、社員のクラウド化にも直結する。これがクラウドの真の意味であり、ITのメガトレンドをつかんでいないと、社会のメガトレンドにも取り残される危険性があることを意味している。
ビジネスにおいては、ITで世界が狭まるのに伴いグローバル競争が加速するという声もよく聞くが、同時に「グローバル協調」も進む。例えばiPhone。デザインはカリフォルニアだが、製造は中国だ。
グローバル協調下では、どの産業でも「スマイルカーブ」が深くなる。スマイルカーブとは、モノの製造過程で、川上にいるデザインや商品開発を担当するhigh layerと川下で製造を担当するlow layerは利益を得られて潤うが、中間地点に位置する販売店などの利益率は低くなってしまうこと。横軸に工程、縦軸に利益率をとって図式化すると、そのカーブが人が笑ったときの口のような形になることから、こう呼ばれるようになった。iPhoneを開発するアップルと製造を受け持つ中国企業は儲かるが、それ以外は大した利益を得られない。
ブログやSNSといったソーシャルメディアの普及も、情報ビジネスも含めた社会構造を大きく変えていくに違いない。特にマスメディアは、存亡の危機に立たされるだろう。スマイルカーブは、ここでも顔をのぞかせる。
メディアの語源は「ミディアム=中間」だが、日本においては「ミディアム+コンテント」で、メディア側がコンテンツを押さえているというのが、長きにわたる慣習だった。だからこそ彼らは儲かっていたわけだが、昨今はコンテントが個人の側に移り始めている。
こういったときに何が起きるかというと、それは「土管=インフラ」の種類が減少するということ。土管そのものは必要だが、今後は価格競争による淘汰が起こり、最終的には2~3社に落ち着くのではないだろうか。たとえば、いまの日本には全国紙と呼ばれるものが何種類もあるが、果たしてこれだけ多くの「土管」は必要なのだろうか? ただの土管はスマイルカーブの真ん中に追いやられてしまうだろう。