クラウド化、ソーシャルメディアの台頭……。ITトレンドからのメッセージが意味すること、それは業界再編やワークスタイルのドラスティックな変化だ。「そんなに簡単に世界は変わるか?」と思うかもしれないが、思い出してほしい。JALが潰れたとき、果たしてエンドユーザーの誰が悲しみ、困っただろうか。会社が倒産してもマイレージは残ったほどだ。
ここからわかるのは、サービスは失われると困るものの、会社が倒産しても誰の生活にも支障をきたさないという冷徹な事実だ。エンドユーザーは今後、本当に欲しい商品やサービスにしかお金を払わず、顧客を満足をさせられない企業は市場から去っていくしかない。
クラウド移行の本格化に従い、必要なときだけ働けばいいというワークスタイルが浸透するだろう。ITにはそれだけの力がある。スキルの高い人材に仕事が集中し、そうでない人材は暇を持て余し、結果、富の分配も変わっていく。ただしこれについても、クラウド化を現実化した「ブロードバンド」が問題解決のヒントを与えてくれている。
かつて「テレホーダイ」という夜間だけ安くネットに繋げられるサービスがあったが、深夜帯に負荷がかかり、アクセスに支障をきたした。ところがブロードバンドが普及し、いつでも定額で高速通信を使えるようになったことで、アクセスは安定するようになった。人間は、飢餓感があると欲張り、反対に目の前に豊富な資源があると無駄遣いしないよう行動するものだ。これはお金も同じで、いつなくなるかわからないから、もっと欲しいと欲張るのだろう。
雇用が流動化しクラウド化した社会では、個人間の競争はもっと激化する。だが、ひと握りの人間しか潤わない社会は、それ自体が社会として成立できないとい うことも、紛れもない事実である。そうなると、保障も含めた社会構造は、さらにドラスティックに変化していくだろう。ベーシックインカム論議が盛り上がる のも頷ける。それほどの鍵を、ITトレンドの行く末は握っているのだ。