特産物のツアーガイドが自宅で受けられる

【中井治郎(社会学者)】そうすると、僕らみたいな住民には辛いだけですが、京都の“冬の底冷え”みたいなものをコンテンツにしていかないといけないってことでしょうか。

【宗田】底冷えする冬に、お寺で石庭を掃く。これはいいかもしれません。つまり、そういう自由な発想で、クリエイティブな体験をたくさんつくっていかないと、将来的に京都は持たないかもしれないということです。

【中井】私は、表向きには社会学者ですが、京都とアジアをふらふらしながら暮らしている現役のバックパッカーでもあるんです。このコロナ禍で貧乏旅行ができなくなった僕らは、バンコクのBTSというスカイトレインの車内アナウンスとか、ホーチミンのブイビエン通りの雑踏を音声とかをオンラインで聞く、みたいな遊びを始めたんですね。

コロナ禍前は、自分が何をもって旅の体験だと感じていたのか、今回あらためて見つめ直しているということ。おそらく私みたいな人はいっぱいいて、そうした自分の旅行体験を見直して、オンラインに還元する流れは進んでいると感じます。

写真=遠藤由次郎

【村山】本にも書きましたが、オンラインツアーは広がりをみせています。たとえば、あらかじめ地域の特産物を宅急便で送っておいたうえで、生産者がツアーガイドとなって特産物の紹介や生産地の様子を、ライブ配信で現地から届けるということを行っている。

これは生産者支援ということにもつながっているし、すごく可能性が感じられます。一方で、宗田先生のおっしゃるように、工夫や創造性がないと、オンラインで満足してしまって、現地に足を運ぶ機会が減るということは十分に起こりそうです。

重要なのは街並みではなく現地に暮らす人びと

【宗田】アメリカの社会学者にリチャード・フロリダという人がいるのですが、彼がいうクリエイティブ・クラスの概念です。

詳しく説明すると長くなるので、『インバウンド再生』を参照してもらえれば嬉しいんだけど(笑)、簡単にいうと、イタリアで若者を筆頭に外国人観光客を受け入れた層がいて、継続的な文化接触が起きた。

その結果、アカルチュレーションと呼ばれる文化変容が起きて、観光にエネルギーが注がれつづけていく。少し前に『町家再生の論理』という本でも書いたことですが、町並みを保存したら観光が盛り上がる、というわけではないということです。

写真=遠藤由次郎

【村山】先ほど中井さんが「冬の底冷えがコンテンツになる」と言ったのは、それは中井さん自身がバックパックを背負って、いろんな国を旅しているから出てくる発想だということですね。

【宗田】つまり、最初に「京都は危うい」と言いましたが、このクリエイティブ・クラスが活躍できる土壌があるかどうかにかかっているということ。

【村山】いまの宗田さんのお話を聞いていると、観光にエネルギーを与えるのは歴史的建造物やアウトドアスポーツといったコンテンツではなく、コンテンツを創造する人であるといえるわけですね。

私は仕事柄、いろんな地域や場所で観光に携わる人たちと広く接点をいただいていますが、ここ数年は特に優秀な、それこそ宗田先生がいうようなクリエイティブな人たちが観光の分野に入ってきてくれていて、実際に活躍の場を広げていたように感じていました。