>>齋藤さんからのアドバイス

過去に、論文を書くのが仕事であるにもかかわらず、2年間にわたってまったく書けなかったという苦い経験をしました。当時は「驚くほど質が高くて画期的な論文を目指す」という目標を掲げていたのですが、いまにして思えばこの目標設定自体がつまずきの原因でした。高い理想を掲げても目標の内容そのものが具体的な実行性に欠けていては、行動にはなかなか取りかかれませんし、モチベーションも上がりません。

それに気づいてからは方針を変え、2カ月に1本論文を書くという目標に設定し直しました。「質」がだめなら「量」で試してみようと思ったのです。すると、質で目標設定を行っていたときは肩に力が入ってなかなか前に進めなかったのが、量での目標設定に変えてみるとリラックスして取りかかれ、最後まで書き通すことができた。完璧を求めるあまり完成に至らないという事態から、ようやく抜けだすことができたのです。

量をこなせることがわかると、今回の論文は75%の出来映えだったけれど、次の論文で残りの25%をカバーすればいいといった考え方ができるようになります。数をこなすことで質も上がり、結果として質の高い仕事を量産できるというプラスのサイクルに入ることができるようになるのです。

質という客観性に乏しい指標は、目標として掲げるには難しいものです。自分のレベルを自分で判定すること自体が困難ですし、質を求めるプライドが前進の邪魔をすることもある。プライドというのは見せまいと思っても自然と出てくるものなので、いったん心の中にしまっておき、まずは誰が見ても客観的に判断できる量で勝負してみると、他人の評価もついてくるようになるものです。

量をこなさないまま、「質の高い仕事をしているはずなのになぜ評価されないのだろう」と思う気持ちに妥当性がないわけではありません。しかしそう考え始めると独りよがりの悪循環に陥りがちです。そうならないためには、量という客観的な指標を基準にした目標設定が功を奏するケースがあるということを、知っておいても損はないと思います。