つまりTikTokに対して、もっとも脅威を感じたのは、Facebookなのだ。TikTokのアクティブユーザー数はFacebookの「Instagram」に2億人の差で、いまの人気ぶりで追い越すのは、それほど時間が掛からないはずだ。

実は、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは昨年の秋からTikTokの脅威について警鐘を鳴らしている。首都ワシントンで表現の自由に関する講演を行った際、ザッカーバーグ氏は「TikTokはフェイスブックの表現の自由に対するコミットメントを共有しておらず、米国の価値観と技術的優位性に対するリスクとなっている」と語った。

さらに7月30日、米下院独占禁止法小委員会でこう述べている。

「Facebookは誇り高い米国企業だ。(中略)だが、われわれの価値観が勝利する保証はない。例えば、中国は独自のアイデアでサービスを構築しており、そのビジョンを他国に輸出している」(※3)

ザッカーバーグ氏の再三の催促が功を奏したのか、トランプ大統領は、2020年8月6日、TikTokを傘下に置く中国のバイトダンス社に関わる取引を禁止する大統領令に署名した。

何よりも重要なのは蓄積された膨大な「データ」

SNSプラットフォームは莫大な収益を得られることはよく知られている。2004年の創業当時、Facebookはハーバード大学生向けのサービスにすぎなかった。しかし16年後のいま、世界最大のSNSプラットフォームに成長し、25億のユーザーを持つバーチャル王国となった。プラットフォーマーはユーザー数に比例して収入を得ることができる。Facebookの時価総額は8000億ドルを超えて、時価総額の世界ランキングにおいて、常に第5位、6位前後をキープしている。

さらにSNSプラットフォームには、属人的な情報及び非属人的な情報を膨大なデータとして蓄積してある。最近、個人データの保護において、GoogleやFacebookなどがEU諸国と訴訟沙汰をかかえている。EU諸国はプライバシー保護を理由にしているが、背後にあるのはデータをだれが握るのかという争いだ。

将来テクノロジーの覇権は、まずAI(人口知能)の分野で繰り広げられるものだ。そもそもAIは、脳をモデルとして知的活動を行うプログラムである。経験と学びから自らの力で作業タスクを実行することができ、自動的に課題解決の方法を見つけ出している。学習のためには大量のデータが必要で、AIのアルゴリズムだけでは何の意味もない。25億人のSNSプラットフォームは25億人分のデータをもつことを意味する。

TikTokはいまの人気ぶりからすれば、これからますますユーザーを集めるだろう。世界的に影響力のあるプラットフォームになる可能性がある。出る杭は大きくなってしまう前に打つ。つまり、米国が最も競争力を持つ企業や産業を、政府の介入によって保護する。これこそFacebookおよびトランプ政権がTikTokを狙い撃ちにする本当の理由だと筆者は判断している。