PIIGSのGDPはユーロ圏全体の35%

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10年物国債利回り(2010年5月8日現在)

ギリシャのGDPはユーロ圏諸国全体の2.7%にすぎない。もしギリシャの財政危機だけにとどまるのであれば、ユーロ圏諸国としては、それほど大きな問題ではなかったかもしれない。しかし、ギリシャの財政危機が、同様に財政赤字および公的債務残高の大きい、いわゆるPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)の他の諸国に飛び火するようなことが起こると、PIIGSはユーロ圏諸国全体のGDPの35%に達することから、ユーロ圏そのものの問題としてPIIGSの財政危機に直面しなければならなくなる。そのような事態を回避するために、ユーロ圏諸国はギリシャの財政危機にIMFと取り組まざるをえなくなったのである。

さらに、ギリシャの財政危機が他のPIIGSに伝染した場合(正確には、リスボン条約第122条第2項に基づいて、自然災害と同等の「制御できない例外的な事態」に直面した場合)に備えるために、欧州連合(EU)は最大5000億ユーロの「欧州安定化メカニズム(European Stabilization Mechanism)」を創設することを決めた。今後、他のPIIGSで起こるかもしれない財政危機が人災ではなく、天災のように「制御できない例外的な事態」かどうかは議論のあるところではあるが、ギリシャの財政危機が他のPIIGSに伝染することを阻止しようとするものである。5000億ユーロのうちの最大4400億ユーロは、ユーロ加盟国政府によって比例配分で保証された特別目的事業体を通じて金融支援が行われる。IMFもこのために最大2500億ユーロを融資する。この「欧州安定化メカニズム」は、IMFと同様のコンディショナリティを課したうえで実施されることになることもEUで合意がなされた。とりわけ、ギリシャにおける財政に関する統計処理の不備による財政赤字の上方修正に代表される財政規律の欠如から発生した財政危機を踏まえて、EUはとりわけ財政状況に対するサーベイランス(監視)の実施を行うことにしている。

ギリシャの財政危機を契機に、ドイツなどで、欧州(ユーロ)通貨基金=Euro(pean)Monetary Fund:EMF=の創設の議論が起こっていた。例えば、ドイツのシォイブレ財務大臣は、厳しいコンディショナリティと財政規律を強制する罰則によって裏づけされたEMFの創設を提案している。また、財政規律を遵守させて、モラルハザードを防止するために、一種の保険制度のようなEMFがグロスとマイヤーによって提案されている。すなわち、マーストリヒト条約で決められたユーロ導入の経済収斂条件である財政赤字のGDP比3%や公的債務残高のGDP比60%を超過した国だけが、その超過分に比例して、EMFの分担金を負担しなければならないというものである。これによって、モラルハザードを防止しようというものである。これは、無事故無違反のゴールドの運転免許を持っている運転手の保険料を安くし、過去に事故や違反をした運転手には高めの保険料を設定することによって、今後の事故を防ごうとするものと同じである。このようなリスク連動型の通貨基金はモラルハザードを防止することが期待されるかもしれない。

ユーロ圏諸国は、ギリシャの財政危機が他のPIIGSに伝染することを止めるために、IMFによる財政再建のためのプログラムを利用した。しかし、このコンディショナリティがギリシャ国民、特に公務員労働組合組織に受け入れられるかどうかに依存して、ギリシャの財政危機、ひいては、PIIGSの潜在的な財政危機を抑えることができよう。同時に、財政規律を保ち、モラルハザードを抑制するスキームが求められている。

(図版作成=平良 徹)