紛失したのが「チケット」か「現金」かで行動が違う

心理的財布に似た概念に、心理学者トヴェルスキーとカーネマンが提唱した心的会計があります。これは、心の中の会計システムというような意味です。

彼らは、2つの条件を設定し、映画のチケット購入をするという人の比率を比較しました(図表2)。調査対象となった383名のうち、200名が条件1、183名が条件2に振り分けられました。結果をみると、条件2では88%がチケットを買うと答えていますが、条件1ではチケットを買うという人は46%しかいません。ほぼ2倍の開きが出ました。

 
榎本博明『ビジネス心理学大全』(日本経済新聞出版)

このような違いについて、彼らは心的会計によって説明しています。条件1では、一度購入したチケットを再度買うことになります。その場合、チケット支出用の心理的口座からもう一回チケットを買わなければならず、同じ心理的口座からチケットを二重に購入する痛みを伴うため、チケット購入への心理的抵抗が生じます。それに対して、条件2では、現金とチケット購入のための金額が別々の心理的口座に入っているため、二重購入の痛みを伴うことがなく、チケット購入への心理的抵抗は生じません。

このように心理的財布、あるいは心的会計というとらえ方をすることで、消費者が一般にどんな状況でどんな支出の仕方をするかという一般的な消費傾向を知ることができます。さらには、消費者による支出傾向の違いをもとに、いくつかの集団に類型化し、類型ごとにどのような消費傾向を示すかを知ることができます。そのような消費傾向は、マーケティング戦略を立てる上で、大きなヒントとなります。

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