とはいえ、今年3月19日に丸山穂高衆議院議員が提出した質問主意書(※1) に対して、政府は3月31日に次のような答弁書(※2)を返している。

※1:衆議院ホームページ「内閣総理大臣の記者会見に関する質問主意書
※2:衆議院ホームページ「衆議院議員丸山穂高君提出内閣総理大臣の記者会見に関する質問に対する答弁書

「記者会見において正確な情報発信を行うため、普段から記者の関心を政府職員が聞くなど、政府として可能な範囲の情報収集は行っている」

つまり、内閣記者会の記者がする質問に対しては、あらかじめ想定問答を準備していると考えていい。一方で、私のようなフリーランスの記者の多くは質問の事前通告をしていない。関心についての聞き取り調査も行われていない。

これらの事実から、容易に想像できることがある。質問者を指名する内閣広報官に「そもそも最初からフリーランスに当てる気がなかった」という疑惑だ。もし、そうでなければ、7年3カ月もの長きにわたって、「フリーランスの記者が全く当たらない」という異常事態が続くことは考えにくいだろう。

新型コロナウイルスが生んだ変化

ここまで私は首相会見の主催者である内閣記者会が、主導権を官邸側に奪われている実態を書いてきた。しかし、今年に入ってから、首相会見には大きな変化が起きている。

その発端となったのは、2月29日に行われた記者会見だ。この日の記者会見は、新型コロナウイルスに関する政府対応を説明する初めての首相会見だった(※3)

※3:首相官邸ホームページ「令和2年2月29日 安倍内閣総理大臣記者会見

冒頭の19分間、安倍首相は従来の会見と同じようにプロンプター(透明な板に原稿を映し出す装置)に映し出された「冒頭発言」を読み上げた。プロンプターがあるために、首相はカメラ目線で国民に向けた演説をすることができる。テレビ画面の向こう側にいる視聴者は「力強い」と感じたかもしれない。

私は首相がプロンプターを使うことは否定しない。私が問題だと思うのは、首相が「官僚の作文」を読まされていることだ。

これは5月4日の首相会見で、安倍首相が持続化給付金の入金開始日を「8月」と読み間違えたことからも推察できる。この時、会見を中継していたNHKのテロップには「8日」と表示されていた。

そもそも首相が自分で考えた原稿であれば、政権のアピールポイントである持続化給付金の開始日時を大きく間違えることはないだろう。

江川紹子記者「まだ聞きたいことがあります」の衝撃

少し話がそれてしまった。再び2月29日の会見に時を戻そう。

私はこの首相会見をネットで見ていた。そして、冒頭発言後の「演出」にも、ある種の「嫌らしさ」を感じていた。

首相の冒頭発言が終わると同時に、演台の両脇に設置されたプロンプターの板が下げられたからだ。これを見ると「質疑応答はガチンコで行われる」という印象を抱く演出だ。

写真=首相官邸ホームページ
2月29日に首相官邸で開かれた安倍首相の記者会見。

しかし、現場の記者は知っている。プロンプターが下がっても、首相の演台には小型のモニターが埋め込まれている。首相の手元には想定問答が書かれているファイルもある。だから幹事社からの質問に回答する際、首相は何度も演台のファイルに目を落とす。