若い世代が極端に不利な状況に置かれている

2052年の65歳は現在の32歳だ。ケースVIの場合、現在32歳より若い世代の年金は所得代替率36~38%になる。過去16年間の延伸ケースを考えれば、現在30代半ばから後半、あるいは40代から、ハードランディング後の年金給付水準となる。つまり、若い世代が極端に不利な状況に置かれている懸念は拭えないのだ。

こうしたハードランディングは何としてでも回避されなければならず、2014年財政検証では、ハードランディング回避に向けた政策が示されていた。それは、マクロ経済スライドにおける名目下限措置の廃止である。マクロ経済スライドのフル発動とも言われる。

例えば、現役世代の賃金上昇率0%、スライド調整率0.9%であった場合、マイナス0.9%の年金額改定とするのだ。フル発動すれば、現役世代の賃金が伸びずとも、年金給付水準の確実な引き下げによる積立金の確保を通じ、ハードランディングが回避できる。

2014年の財政検証において最悪の経済状況(それでも名目賃金上昇率1.4%)として想定されたケースHでは、2055年に積立金が枯渇し、やはり所得代替率が30%台半ばに一挙に落ち込むとの試算がされていた。そうしたケースHであっても、名目下限措置を廃止することにより、ソフトランディングできる(所得代替率は41.9%)ことが示されていた。2014年財政検証時、名目下限措置の廃止は政策の選択肢として示されつつ、残念ながら実際の法案化には至らなかったため、2019年財政検証への課題として残されていたはずだった。

ところが、2019年財政検証では、政策の選択肢としてすら示されていない。オプション試算の名のもと政府から示されている政策は、繰り下げ受給可能年齢の70歳から75歳への引き上げをはじめ、些末な、ハードランディング回避とはほぼ無関係なものばかりである。

9月12日、第4次安倍内閣発足に際し、安倍晋三首相は記者会見で次のように述べている。「全世代が安心できる社会保障制度を大胆に構想する」。全世代が安心できるためには、若い世代が極端に不利な状況(ケースVI、あるいは、過去16年間の延伸ケースのような経済状況がもたらす帰結)に置かれるようなことがあってはならない。

まずはマクロ経済スライドが2004年の導入以来ほとんど機能してこなかった現実から目を背けないことが不可欠だ。

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