“打つべき球”は確実にヒットするべし

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「若い部長」が増加している(部長職に占める各年齢層比率)

丸紅の朝田照男社長は言う。

「実行力のある人、できる人を登用していきます。年齢や性別、国籍に関係なく。経済環境が悪化しているだけに、できる人を引き上げていかなければ」

輸出中心で今期軒並み赤字決算の自動車や電機と比べ、総合商社はいまのところ経済危機の影響をそれほど受けてはいない。だが、朝田社長は「できる人を」と強調する。

丸紅の人事制度の特徴は、翌年の年収を決める実績評価と、出世を決める能力評価とが一元化されている点だ。したがって、成果が年収だけではなく、昇進昇格にも反映される。

また、2008年度第3四半期(累計・連結)の比較損益計算書における「販売費及び一般管理費」は、三菱商事の半分以下の3029億円。丸紅のある首脳は「人件費を抑えているため。つまりは少数精鋭。(1990年代後半から02年にかけて行った)リストラにより、組織も財務も、水膨れ体質から筋肉質に変わった」と説明する。選択と集中が徹底されていて、評価基準となる“打つべき球”を確実にヒットしないと、賃金と出世の格差は広がっていく形だ。

福島県いわき市のS社会保険労務士は、昨年末から超多忙になっている。地元の中小企業から、「人事制度を抜本的に変えたい」という依頼が相次いでいるためだ。

いわき市に工場進出している自動車や電機の大手メーカーは、“派遣切り”を実施。このため地元の職安は求職者でごった返している。地元の流通業、サービス業のなかには「人材獲得のチャンス」とばかりに、中途採用を積極化した会社もあるが、一握りにすぎない。

S氏を訪れるのは、「生き残りをかけた中小企業ばかりです。具体的な依頼内容は、若手を抜擢する登用制度と、リストラにつながる給与体系の見直し」。

中小企業には組合はない。昨年末の賞与は各社とも悲惨を極めた。販売や受注が落ち込むものの、銀行借り入れはできず内部留保もない。経営基盤はみな脆弱だ。

総賃金コストを削減させながら、賃金が低く長期に働ける若手を登用させたいと、社長たちは考えている。特に、大企業が10年以上前から導入した「役職定年制」を求める依頼は多い。つまり、ラインの幹部以外は、例えば55歳で年収は4割カットといった内容。中小企業でも、出世により天国と地獄となる。

「中小にとって、いま最も重要なのは会社を潰さないこと。“社員を大事にしない経営者は失格”、などと大企業のサラリーマンのような生温いことは言ってられない。明日、本当に倒産するかもしれないのだから。確かに、経済危機は打撃です。が、ドンブリ勘定を脱し、中小が近代的な人事・給与システムを導入するには好機」とS氏は指摘する。