眠くなるコツをちりばめた「眠り方の教科書」
筆者も、眠れない時はオーディオブックでロジャーを聞いている。聞き始めて数分であくびが止まらなくなり、いつの間にか寝てしまうから不思議だ。子供だけでなく、大人まで眠くなってしまうのはどういう仕組みなのだろうか。
「人が眠くなるためには、いろいろコツがあるんです。でも僕たちって、生まれてから一度も家庭や学校で『眠り方』を教わったりしませんよね? ロジャーには、話を聞いているだけで眠くなる仕組みが、物語のいたる所にちりばめられているんですよ。これには三橋さんも驚いていました。よくここまで、眠るためのテクニックを物語の中に詰め込められたなと。『眠り方の教科書』とまでおっしゃっていましたね」(矢島氏)
例えば、ウトウトフクロウというキャラクターが、体の部位ごとに力を抜いていくようにと語るシーンがある。これは「自律訓練法」という、自律神経を休め、リラックスするためのれっきとした睡眠メソッド。こうした“寝るためのコツ”が、物語の至る所に紹介されているのだ。
また、もう一つの秘密が“単調なストーリー”。「ロジャーはわざと単調なストーリーにしています。なぜなら、面白いと目が覚めてしまうから。そんな絵本って他にないんですよ。だって絵本って、普通は子供を楽しませるものですからね」(矢島氏)
最初は「これは売れないだろう」と言われた
こうして日本版ロジャーができあがったが、最初は評判が良くなかったという。
「そもそも弊社(飛鳥新社)で、絵本を販売するのは今回が初めて。基本、ビジネス書や政治の本、ノンフィクションが多いので、営業も絵本の売り方が分からない。特に大きい書店では、本のジャンルごとに担当者が違います。児童書担当の方と人間関係を作るところから始めなければなりませんでした」
寝る前に読み聞かせるための絵本はたくさんあるが、この本は本当に眠くなること、科学的理論に基づいて作られていることなどを説明しないと魅力が伝わらない本だったということもあり、書店への営業に苦労した。
さらに「こんな怖いイラストの絵本は売れないだろう」と、書店員からの評判も悪かったという。確かに絵本にしては、ロジャーの絵はかわいさが足りない。
しかし、矢島氏は事態をポジティブに受け止めていた。「かわいいイラストが並ぶ絵本売り場で、異彩を放つ怖いイラスト。しかもその絵本を読むと子供が10分で寝るって、強烈なインパクトがあるじゃないですか」
またこの時矢島氏は、過去に一世を風靡(ふうび)したソニーのウォークマンのエピソードを参考にしていたという。ウォークマンも、最初は「こんなものは売れない」と散々言われていた。「録音機能がないし、再生しかできないものを誰が買うのだ」と。しかし、結果的には大ヒット商品になった。「周りからどんなに批判されても、このウォークマンの話を心の支えにして頑張りました」