60代前半男性と60代女性の賃金下落の要因は定年延長だろう。では、40代後半~50代前半の男性の賃金はなぜ下落しているのか。この年齢階層は、バブル期前後の「売り手市場」で大量採用された世代であり、昇進率の低下などで平均賃金が下がっている可能性が高い。そして、大企業の場合、従来は昇進が止まっても「給与据え置き」だったものが、現在は「給与引き下げ」が行われるようになっている。これが冒頭のA氏のケースだ。
一応は60歳の定年まで働き続けることができ、定年を迎えても本人が希望すれば継続雇用を受けられる。だが、企業はそのために40代後半~50代前半の時点で給与の引き下げを行い、さらに定年延長後の給与も大幅に引き下げるケースが多いのだ。
40代後半~50代前半は、子どもの進学や親の介護が始まる時期でもあり、出費がかさむ。同時に、老後の生活費を考えなければならない年齢でもある。貯蓄に力を入れたいが、賃金が上がらないのだからそれも難しい。
給与は上がらず貯蓄もできず、退職金もない世代
現在の40代後半~50代前半はいわゆるバブル世代。その次の40代前半~40代半ばは、就職氷河期だった団塊ジュニア世代(70年代前半生まれ)だ。
いま正規雇用であっても、年俸制でボーナスがなく、退職金制度もない欧米型の雇用契約をとる企業が増えている。そうした企業の社員は、定年を迎えても退職金がないため、退職と同時に貯蓄を取り崩す生活に突入する。
十分な貯蓄があれば「豊かな老後」を迎えられるが、貯蓄がなければ「悲惨な老後」が待っているだけだ。団塊ジュニア世代が年金生活者の仲間入りを始めた時、貧困高齢者の爆発的な増加が起きる可能性は非常に高い。
生産年齢人口の減少が進むなかで、現役世代が高齢者を支えるという現在の年金制度は成り立たないだろう。政府は、高齢者の所得確保に向けた対策を、早急に進める必要がある。後手にまわれば、「職なし貯蓄なし年金なし」という三重苦の高齢者が大量発生することになる。