でも、日本は一人の凡人のリーダーと100人の優れた兵士型の社会……
太郎ちゃんには、愛とダンディーと失言が似合う。自ら書き込むこともあるという2ちゃんねるでも大人気で、話をする時に口が曲がってしまう癖をそのまま描き取った「麻生太郎」を意味する顔文字「(゜⊿゜)」が存在するほどだ。そんな政治家なんて、彼しかいない。そういったメインストリームではない傍流・亜流の文化や社会層をポジティブに面白がって理解しようとする、人間への愛ある姿勢が、特に若い世代では広く支持される根拠なのだろう。
日本一色気としゃれっ気があって、実際には日本のあらゆる層への理解も愛情もある賢者の太郎ちゃんは、残念ながらその「失言」をことごとく記録され揚げ足を取られて、日本の首相としてはたった1年という短い期間しかその座にいることができなかった。特筆されるような強い個性や哲学を持つリーダーは、日本の社会では疎まれる。マクロを見ずにミクロの失策をつついて淘汰する方式だからだ。日本は「一人の凡人のリーダーが、100人の優れた兵士を統率する社会」と言われる。でもその話にはおまけがあって、実際には「一人の優れたリーダーが、100人の凡人の兵士を統率する社会」のほうが、より優れたパフォーマンスを出せるのだ。
政治家には、おかしな信条に陶酔しきった凡人が優れたふりをして「民のために」こねくり回す言葉よりも、ストレートな愛と人間力と曲がらない理念こそが必要で、でもそのストレートさは、日本社会ではアダとなる。副首相という立場でそこにいて、世界のどこかでアホウな個性がバカヤローなことをしでかすのを、「その程度だってことよ」と軽妙なダンディさでカウンターパンチを食らわせてくれる太郎ちゃん、外交上はとても懸念のある発言だけど、「やっぱり言ってくれるね!」と爽快感のある役者は、日本にはやはり、彼くらいしかいない。
1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部に入学。奥出直人教授のもとで文化人類学・比較メディア論を、榊原清則教授のもとでイノベーション論を学ぶ。大学の研究者になることを志し、ニューヨーク大学ビジネススクールの合格も手にしていたが、子供を授かり学生結婚後、子育てに従事。家族の海外駐在に帯同して欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどに寄稿・出演多数。教育・子育て、グローバル政治経済、デザインそのほか多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を続け、政府広報誌や行政白書にも参加する。子どもは、20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。