基本計画がわかりにくい最大の原因は
電源ミックスが明示されなかったため、新しいエネルギー基本計画の内容はわかりにくいものとなっている。そのことは、原子力発電の位置づけに関する記述に、端的な形で表れている。
「エネルギー基本計画に対する意見」は、焦点の原子力発電の位置づけについて、「重要なベース電源」と述べる一方で「原発依存度は可能な限り低減」させるとし、ただし「必要とされる規模を確保」するとも記述した。きわめてわかりにくい表現だと言わざるをえない。同意見書の草案が審議された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の席上、委員であった筆者(橘川)は思わず、「マッキー(槇原敬之)の歌の『もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対』というフレーズみたいでわかりづらい」と発言してしまったが、今もその気持ちは変わらない(マッキーのファンから、問題の歌詞はきちんとした二重否定になっており「今後も恋をし続ける」という意思を明示したものだという反論が予想されるが、この歌のタイトルは「もう恋なんてしない」であり、その意味ではミスリーディングになっていることを忘れないでほしい)。
新エネルギー基本計画がわかりにくい最大の原因は、多くの国民が期待していた30年における電源ミックスの数値の発表を回避したからである。それでは、30年の原発依存度および電源ミックスはどのようなものとなるだろうか。その数値を予測するうえで手がかりを与えるのは、当面する原発再稼働のゆくえである。
昨年の参議院議員選挙の結果を受けて、すべてが運転停止中の原子力発電所が雪崩をうって再稼働するのではないかという見通しがある。原子力規制委員会が決めた新しい規制基準をクリアした原発については、迅速に再稼働させるというのが、参院選で圧勝した自民党の政策だったからだ。
しかし、事態はそれほど単純ではない。そもそも自民党は、参院選でも原発政策について、中長期的な見通しを明言しない方針をとった。原発に対する国民世論はいまだに厳しいと読んだうえで、原発政策を争点から外したほうが、勝利をより確実なものにできると判断したからだ。選挙前にその内容を明言しなかった以上、たとえ選挙に大勝したからといって、自民党の原発政策が支持されたことを意味しない。事態を複雑にしているのは、このような事情があるからだ。
一方で、原発のある程度の再稼働は不可避であることも事実である。昨年10月にとりまとめられた電力需給検証小委員会の報告書が明らかにしたように、原発停止による火力発電用燃料費の増加額は年間3兆6000億円にのぼる。12年から13年にかけて電力会社7社が電気料金の値上げを実施ないし申請したが、それらは原子力発電所の再稼働を前提にしたものであり、再稼働が遅れて原発の運転停止が長期化した場合には、再度の料金値上げが取り沙汰されることになろう。
それでは、原発はどの程度再稼働するのだろうか。この点に関しては、(1)昨年7月に原子力規制委員会がフィルター付きベントの設置を含む、厳しい内容の規制基準を設定したこと、(2)12年の原子炉等規制法の改正で、原則として運転開始後40年を経た原子力発電所を廃止することが決まったこと、という2つの新しい規制が重要な意味をもつ。