ところが、「環境はどんどん悪くなっている。将来は不安だ」という煽りに乗せられると、被害者意識が強くなり、犯人探しに走ってしまう。そうなると、自分のキャリアを考える余裕もなくなってしまうのだ。

僕は、外部環境というものは基本的に“行ってこい”でチャラになると思っている。いつの時代もいいこともあれば悪いこともある。同時に異なる時空間で生きることはできないので、実際にそうなのかどうかはわからない。でも、そう考えておいたほうが精神的には健康だ。犯人探しに貴重な時間を奪われなくて済む。

これからのキャリアを考える際には、気持ちをニュートラルな状態に持っていくことが大切だ。そのために、まず自分が置かれた環境を時間軸、空間軸で相対的にとらえ直すことから始めたい。

空間軸は、ほかの国と比べることで相対化できる。ただし、中国が伸びているとか、サムスンの利益がどうだという視点で比べても意味はない。大切なのは、ほかの国で自分と同じような人たちがどのような気持ちで毎日働いているのかということ。人間のレベルでほかの国を知ろうとするほうが、自分を相対化できる。

具体的なアクションとして、今年は海外に多くの友人をつくることをお勧めする。うちのMBAプログラムには、20カ国以上から学生が集まっている。ポーランドから来た学生は、ポーランドにいても仕方がないと考えて18歳のときに単独出国。ドイツで掃除婦として不法就労していたが、途中で制度が変わって堂々と働けるようになり、お金を貯めて大学に入った。カンボジアからきた学生は、ポル・ポト革命の真っ只中、自分の目の前で家族6人中4人が殺された。その後は浮浪者のような生活を送ったが、頑張って財務省の役人になるほど出世した。世界は広い。空間を超えてさまざまな人の生きざまに触れると、自分が抱えていた不安がひどくちっぽけなものに見えてくるに違いない。