企業の本音は「残業代を減らしたい」

私が座長を務める規制改革会議の雇用ワーキンググループでは、この秋から労働時間規制の問題を中心テーマとして取り上げます。

われわれが労働時間の問題で最初に議論したのは、裁量労働制でした。裁量労働制は例外的に通常の労働時間に規制をかけないようにして働き方の柔軟性を確保するものですが、非常に使い勝手の悪い制度になっています。たとえば企画業務型裁量労働制の適用労働者の割合は、調査対象企業の労働者の0.3%にすぎません。

規制改革会議には企業側から「もっと使い勝手をよくしたい」との意見が寄せられました。ただ、ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制適用免除制度)が頓挫した際に指摘されたように、企業側の本音は「残業代を払わないといけない労働者を減らしたい」という点にあります。しかしそれは企業側の一方的な論理であって、労働者の立場からも考えなければいけないのは当然です。

では、労働時間規制はどうあるべきなのでしょうか。前述したように長時間労働は一概に悪とは決めつけられませんが、労働者の健康確保を目的とした規制は政府の役割として実施すべきです。自発的であっても健康への影響を理解していない労働者もいるでしょうし、自律的に労働時間を管理できる労働者は限られているからです。

そのうえで、基本的に労使コミュニケーションで解決を図っていくべきでしょう。規制が強すぎると労働者の自律的な選択を損ねかねず、先に見た長時間労働の要因の多くは、企業ごとの解決がカギを握っているからです。

望ましい労働時間規制を考えるため、諸外国の制度を眺めてみましょう。米国では週40時間を超える労働に50%の割増賃金の適用を義務づける間接規制をとっています。一方、ヨーロッパでは週平均で48時間を超えないといった、労働時間を直接規制している国が多い。さらに24時間勤務したら、最低連続11時間の休息期間をとらなければならないというインターバル規制を行っています。

日本では労働基準法で週40時間の法定労働時間を超えてはならないとされ、それ以上働かせるには過半数の従業員で組織する労働組合と書面を締結し、労基署に届ける必要があります。いわゆる36協定ですが、長時間労働の歯止めになっていないのが現状です。

EUとの比較で考えると、日本は長時間労働を抑制する仕組みに問題があると考えられますが、ヨーロッパの規制をそのまま導入すればうまくいくとも思えません。