このような自由度の高い組織風土の中でJINS PCは生まれたのだが、その普及過程で同社は、ターゲットの拡大に合わせ、3段階の緻密なプロモーション活動を展開している。11年9月の発売当初のターゲットは、「ITコア」であった。この時期には、「ブルーライト」という言葉自体が一般に認知されていなかったので、同社はLEDディスプレーのヘビーユーザーを囲い込むことにした。普段から仕事でプログラミングに携わるような四六時中パソコン・ディスプレーに張り付いている人々が「ITコア」なのだが、まずこのような長時間ブルーライトを浴びているハード・ダメージャーにトライしてもらい、パソコン用メガネが本当に効果があることを実証してもらうと同時に、その有効性について情報発信してもらうという手法をとったのだ。これが同社の言う「情報開発」だ。

また、オフィスに1000円引きのクーポンを付けたリーフレットをゲリラ的に配布した。この効果は素晴らしいもので、「いろいろ調査をしていきますと、企業の中の課内で、誰か1人がかけ始めると、周りの3人ぐらいが買ってくれるという現象が起きていることがわかってきました」と池川氏は指摘する。「ITコア」は、まさにパソコン利用のプロであり、信頼性のあるオピニオンリーダーである。彼らを活用した情報開発を約半年ほど続けることにより、JINS PCは数万本売れるヒット商品に育っていった。

その次の段階のターゲットは、「ITマス」と呼ばれる人々である。これは「ITコア」のようにヘビーユーザーではないものの、ツールとしてパソコンを日常的に使用している層である。一般的なビジネスパーソンや学生などがこれに当たる。これらの人々をターゲットとするステージには、12年5月から入っている。この時期には女優の蒼井優を起用したテレビCMを開始し、「パソコンからはブルーライトが発されていて、それをカットするにはJINS PCを利用するといいですよ」というメッセージを送り、幅広いビジネス層に響くようなコミュニケーション活動を実行した。

そして、累計販売本数が100万本を超えた12年11月から第3段階が発進している。このステージでは、「一般マス市場」をターゲットに据えたプロモーション活動を展開している。テレビCMをさらに強化し、人気アイドル・グループ「嵐」の櫻井翔をキャラクターに起用した。女性受けする有名アイドルの起用により、ユーザー層の変化が見られたという。このあたりのマーケットの動向について池川氏はこう語る。「それまでJINS PCのユーザーさんの5割5分ぐらいが男性だったのですが、そのタイミングから女性のほうが多くなりました。おそらく櫻井君という人の持つ力によって、女性がかなり入ってきたと思っています」。現在でも僅差ではあるものの、女性ユーザーのほうが多いという結果になっている。