困りごとをなくす

トヨタの現場で見ていると、カイゼンとは小さな発見から始まっていることがわかる。建屋の通路にねじが1本落ちていたとする。それを見つけて「どうして落ちたのか、どこから落ちたのか」と考えることがカイゼンの第一歩だ。そして、原因を特定し、再発防止策を決めて実行することが問題の解決だ。

ちなみに、わたしは他の自動車会社の工場も3社、見学したことがあるが、どこでも、ねじの1本くらいは落ちている。建屋の隅にはさまざまな用具や部品が立てかけてあったり、置かれていたりする。それが普通の工場だ。

だが、トヨタの工場では通常、ねじは落ちていない。たったの1本も落ちていない。だからこそ作業者は足を止めて、考え始める。他の工場では、ねじの1本くらいは落ちていることがあるから問題の発見にならない。話はそれるけれど、トヨタの工場、オフィスへ行って天井の蛍光灯(LED)が切れているのを見たことがない。これまた他の工場やオフィスではひとつくらいは切れていたり、切れかかっていたりする。

ねじが落ちていることなど、目の前の問題発見ができたら、次は自分から問題を探して解決を考える。

学園で指導員が教えようとしているのは問題の発見と解決だ。つまり、困りごとをなくすことにある。

そう考えていくと、トヨタという会社の使命は困りごとをなくすことにある。

関東大震災からトヨタは生まれた

自動織機の優秀なエンジニアだった豊田喜一郎が「日本人の手で自動車をつくろう」と思ったのは金もうけでもなければ、自動車マニアだったからでもない。関東大震災で被災した人が病院へ行こうにも、クルマが足りなかったからだ。クルマが足りないという困りごとを解決するために純国産乗用車の開発に着手したのである。

そう聞くと、人は「できすぎた美談だ」と感じて、一片の疑いの心を持つ。しかし、どんな人でも仕事をしていて最大の喜びとは他人からの感謝なのである。他人の困りごとを解決して感謝してもらうことができたら、それは金銭には代えられない最大の報酬だ。

「困っていたところを助けてくれてありがとう」と言われたことのある人は理解できるだろう。仕事を通じてお金を得ることはありがたい。しかし、人間は欲が深いから仕事の対価としてお金だけでは満足できない。他人の笑顔、感謝は生きていること、仕事をすることで得られる収穫なのである。