褒めるだけでは成長が止まってしまう理由
わたしはそれと同じことを学園の指導員に訊ねてみた。
「学園では生徒に対して、褒めたり、叱責したりという指導をしているのですか?」
すると、次のような答えだった。
「褒めることはもちろんあります。褒めることは、その本人がしっかりと仕事をこなせていることの実感につながりますし、重要です。しかし、褒めるだけですと、その後どうカイゼンしていけばいいのかわからず、カイゼンが止まってしまう恐れがあります。
そこでカイゼンを続けるためには『見守る』ことが重要になってきます。そのため、弊社および学園では『褒める』、『見守る』。どちらも重視しております」
褒めるだけでは人間の成長は止まってしまう。褒めたら見守る。見守りながら褒めるのがトヨタ、学園の人づくりだ。
不安定な状況をつくる
トヨタは変化する会社だ。なかでも生産現場はトヨタ生産方式が定着しているからつねにカイゼンして、変化させている。
学園も同じだ。時代に合わせて授業内容を変えている。ヤスリがけのような基本実技はそのままやっているが、今では組み立てのようなメカニカルな授業よりもむしろパソコンを使ったソフト開発、コードリーディングなどの授業を増やしている。クルマがモビリティに変わるのだから授業内容もまた従来と同じというわけにはいかない。
トヨタの現場では仕事のやり方を変える際に決まりごとがある。
それは状況を不安定にすること。
状況を不安定にするとムダがあぶりだされてくる。たとえば、10人で担当していた生産ラインからひとり抜いてみる。すると、半日ほどは残りの9人は大忙しの様相を呈するけれど、いつの間にか平然と仕事をするようになる。一度、不安定な状況をつくると、人間は考え始める。自然のうちにムダを省いて9人でできるようになる。
人間は自分からはなかなか変わろうとしない。変わるには外的な条件を与えて、その対処を促す。対処した行動がすなわち変化後の作業となる。
変化するには外から刺激を与えるしかない。教育、指導とは外からの刺激であり、教師が「自分から変われ」と言い放つのは無責任だ。変わる、新しい行動を促すには指導するしかない。学園やトヨタの現場では教員や上司が刺激という指導を与えている。

